【11】調布市グリーンホールのニューイヤーコンサートを前にインタビュー(タウン情報誌に掲載)
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キーボーズの名前でも知られる斎藤雅広さんは、これまでクリスマスにファミリー・コンサートを開いていましたが、今回は、3歳のお子様から大人まで楽しめるニューイヤー・コンサート「斎藤雅広の名曲ヒット・パレード」を行います。その斎藤雅広さんとのプライベート・トークをご紹介しましょう。
先ごろ放送の終わったNHK教育テレビ「趣味悠々」では、おやじギャグを交えながら大人の方をレッスン。最近では、大人のためのピアノ教室が大流行していますが、大人になってからピアノを始める方に教えるのと、子供に教えるのとではずいぶん違うかと思いますが、「大人はやる気と知恵があるので必ず上達します。子供は、鍛える感じかな。どちらにせよピアノが好きなら必ず上手くなります!!」と、心強いお答え。今回は、お客様の中から「エリーゼのために」をステージで一緒に弾く方を募集しますが、練習のポイントは、「自分のためではなく、エリーゼさんのために弾いてください(笑)。演奏は誰かのためにするもので自分のためにするものではないのです。独り言じゃ騒音みたいなもんだから。」それに、今回はみなさんからのリクエストも受け付けますが、「クラシックでなくても何でもいいのでどんどんリクエストしてください。マツケンサンバ?あはは(汗)。とにかくリクエストの中から、できそうなものをボクら流にアレンジして演奏します!」
実は、斎藤さんは、ファミリーコンサートだけでなく、世界の名だたる名演奏家とも共演されています。趣味は人付き合い、「ソロのリサイタルでも話の合間にピアノを弾いています。」と言うくらい、おしゃべりが大好きな斎藤さんのこと。世界の巨匠ともいつもの調子で話されるのかと思いきや「外国の方とは、おもに超能力で話しています!」(笑)
では、今回の共演者の方々を紹介していただくと、「佐分利さんは、物静かですが、しゃべるとぼそっと一言が面白い。小杉さんには、スマートにジョークをかわされる。松実さんは、渋い系の音楽家なのに声が高くてお茶目。山本さんは、おしゃべりもうまいし冗談好き。萩原さんは、ぼくのギャグが出るタイミングを素早く察知。武田さんは、おしゃれにこだわるマダムキラー。そして今回初登場の角田さんは、そんな我々の突っ込みにドキドキしてる」とか。でも、何より大変なのは、ピアノを弾く斎藤さん。「他のみんなは、いつも寝食をともにしている楽器を弾きますが、ピアノはホールに行っていきなり初対面の楽器を弾くことになります。ホントは音色にもタッチにも自分の好みがあるので、調律師さんだけが頼りなんです。」
そんな斎藤さんのパワーの源は、食べ歩き。健康食品らしくないものが大好きだそうで、「朝からうなぎ、昼はすきやき、夜はとんかつ、夜食にラーメンと言う毎日です。」とヘビー。
さて、今回のコンサートは「今までは、午前の部、午後の部と2回に分けていたところを倍の時間、一度に盛り沢山の内容になります。ぜひみなさんふるっていらしてください!」と、その弾丸トークはとどまることなく続きました。。。 (17.10.15)
マネジメントというのはアーティストがその本来の活動に専念できるようにケアしてくれる仕事であってほしいと思うのです。
いまはぼくはフリーで活動しているので、いろいろやらなくてはならないことがたくさんあって大変ですよね。でも大変ですが、一人でやることは、自分がこうしたいということを自分で決めることができるのでメリットもあります。ただ仕事の規模が大きくなっていけばいくほど一人では当然やりにくくなってきます。
自分の人脈で掘り起こしていってこれこれをやる、ということはできますが、もともと大きなマネジメントが提携してつくってきているようなところに名乗りを上げて、大きなコンサートのなかに自分がある場所を得たり、大きな会社になりかわって仕切ることは、物理的にだって限界があります。ここの部分に個人として食い込んでいくのは一人では難しい。
営業に関して言えば、好評いただいたコンサートの観客の皆さんや、会場となったホール、会館等への挨拶や企画の提案、例えば放送局からアイディアがないから何か提案してくれないかといった打診があったときに、すぐに対応できるかとかですね。やっぱりどこでどんなものを必要としているのかという情報を持っていないとだめですよね。
とくに本人が行きにくいところってあるじゃないですか、わたしに任せてくださいと言えないところ、場合がありますよね、そこへきちんと持っていってくださるマネジメントがほしいわけです。
アテンド業務もありますよ。そのコンサート会場へ連れて行ってくれる。ぼくの場合はそれほどおじいちゃんではないから一人でどんどん行動してしまいます。仕事さえとってくれれば自分で走れますからいいのですが。
ぼくの仕事の事務整理をしてくれるだけでは、ぼくがとってきた仕事の上前をはねるだけのマネジャーになってしまう。逆に自分のビジョンをきっちり持ってこういう仕事に挑戦してみないかと提案してくれるなんていうのは歓迎ですね。だから企画力、営業力があって、それを広める能力がある人、こういう人材がほしいですね。
こんなコンサートをやってみたいというものはありますが、売りを考えたときには自分はきわめて柔軟です。会場、お客さんが何を欲しているかということがとても大事ですから。自分がこうやりたいというよりも望まれたところに対応させようということを大切に思っています。演奏する側がクラシックコンサートでこういうものをやりたいというところで押し切ってしまうと、日本ではまだクラシックは難しいとか、わからないと思っている方が多いので、客離れが起こります。こんなにおもしろいのですよ、というところをやりたいですね。向こうがどういうことを望んでいるのかをしっかりお聞きしてから自分が持っているものとすりあわせをおこない決めるというプロセスを経てやっています。
地方の場合はとくにお役所、というか会館の人たちにやる気がないとだめですよ、集客もできないしね。ですがやる気があって、集客さえしてもらえればこちらはがんばるのですよ。
ホールはたくさん建っているがソフトの方がね、というのはそのことです。どうせ客は入らないのだから、とあきらめられてしまったら、消化事業の一つにされたら、とにかくやりましたが客は入りませんでしたでは何をやっても意味がないですよ。
少なくとも配属の際にそこでやりたい人、やってみたい人を募集してもらわないと盛り上がらないですよね。また逆に集客や盛り上がりだけを考えた企画では、文化は死んでしまいますよね。でも事業は事業。つまり内容重視で赤字を前提とした企画も含めて予算は非常に重要な意味を持っているということです。
そういう意味ではコンサートって特殊なビジネスかもしれません。そう言えば以前、気仙沼市民文化会館でやった公演では周りから盛り上がりましたよね。会場がいっぱいになりました。こちらもいろいろ工夫していかに盛り上げるかをみんなで考えた。
バブルのときは超一流をずいぶん招聘しましたよね。なんでもウィーンみたいなときがあった。しかしいまは状況が許さない。日本にもすばらしいアーティストがいるのだからそういう人たちをどんどん使ったらいいのです。いま逆にこういうときだからこそ日本でがんばっているアーティストたちの活躍のときかもしれない。こういうときだからこそいいものを聴いて、おいしいものを食べて帰ろうぜ、みたいなことが起こり得る。不景気はかならずしも演奏家にとって悪いことではない。 (2003/2/4)
【9】山口文化情報 any(エニー) vol.38 連載コラム「ピアニストはハードボイルド!ソラソラ」
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最終回 いよいよ最終回なのだ!馬鹿な音楽家を救ってくだされ〜(笑)
みなさんお元気ですか?もう最終回になってしまいましたねえ。お名残惜しゅうございます。さてさて最近「今の日本、こういう風に不景気になってると音楽家にはどんな影響があるの?」なんて聞かれる事がよくあります。なので、今日は珍しい「音楽家と経済」のお話などいかが? 不況の影響はねえ〜、あるんですよ、いっぱい。ただ音楽会っていうのは前倒しで企画が決定していきますので、はっきりとつらい影響が深刻なのは、いよいよ今年ぐらいから?かもしれませんね。まず公の機関、県や市等の発注のコンサートは減っていきます。さらに企業もイベントをやらなくなりますので、そちらのコンサートもまたかなり減っているのですね。正しく言うと予算が限定されるので、小規模な企画のものが主体になっていきます。この事によって人によっては演奏会が増えたりする事もあるのですが、それもまた労が多くして実り少なしの状況です。が、しかし〜!音楽家は馬鹿なのです!!!演奏できる場所が増えるというのは、むしょうにうれしかったりする。どんどんやってしまうんですよ・・・はいはい。それは実際、物を売ってる人の場合だったら投売りみたいなものであるのにね。もうね、基本的に大好きな事をやっているので、商売という認識がないんですわ。
また不景気だとやはりチケットの売れ行きも深刻!地道になりますね。「まとめてポーン」みたいに購入してくれる人も少なくなりますし、前述の様に企業の方も渋いので、企業の主催という形での応援も少なくなります。でも企業のほうも小口ならできるという事で、小さい後援ならOKだったりして・・・・だから「自主」演奏会(つまり音楽家の自腹のコンサートです)の方が、こういう世の中では、興行的にアリなのかもしれません。事実そういうコンサートをやらせて、上前を取ってるマネージメントも増えて来ていますが、それでも「おおコンサートで弾ける!」となると、よろこんでやってしまうのが音楽家です。でも、まだまだコンサート自体は求められています。こういう時代だからこそ、心に届くものをって思っていただけると本当にうれしいです。
あと面白いのは演奏旅行に行くと、不景気だととても良いホテルに泊めてもらえるんですよ。ラッキー!バブルのときはビジネスホテルばっかりだったけど、今は超一流やリゾートっぽいホテルできわめて快適な日々です。これはホテル業界も不況なので割り引き率が高いんでしょうね。その代わりね、移動のチケットがグリーン車でない事の方が多くなりました。爆睡したいから自分でグリーンに変更して、さらにその高級ホテル内で食事をしたりすると・・・・どうでしょう?これは我々には負担増になっているわけです。でも気分が良いので貧乏になっていくのに気がつかない・・・・音楽家は超お馬鹿なのです。だからこそぉ!!みなさまのお導きが必要なんです(笑)。よろしく〜!!!また山口におじゃましますね!ホント大好きな街です。一年間どうもありがとうございました。
【8】山口文化情報 any(エニー) vol.37 連載コラム「ピアニストはハードボイルド!ソラソラ」
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第5回 またも来たか、新しき年
もうこんな時期ですか?とついつい思ってしまうのが年賀状制作ですよねえ。この間書いたと思ったら、もうですよ。確かに心をこめてやらねばならぬ事だから余計に大変ですね。そうは言っても凝ってる方も実に多く、毎年頂くのがとても楽しみだったりもするのです。
新年からちょっと不吉なんですが、わたしは父を亡くしてからこんな事を考えています。父は74歳で亡くなりましたが、もし私が同じくらい生きられるとして(今40台半ばですから)なんと年賀状って30回しか書けないんですよね。だから紅白も30回しか見れない(笑)。それを考えると、人生って早い。大体年賀状を書くタイミングって毎年加速する感覚だし。今までの人生が何だったかという事も大事ですが、これからの事を考えると無駄は出来ないって思うのです。特に演奏家は時を食べる職業なんです。音楽というのは一瞬では味わえない。曲は2分だったり1時間以上だったりするけど、みんな時を消費しているのです。CDで聴く時ももちろんですが、生の演奏会というのは、お客さまの人生の2時間を頂いている、共有しているという事なんですね。ある有名な画家が「アーティストっていうのは命をかけられる人の事だ」と言われていたのを思い出します。確かにアートというものには、訳のわからない意味不明な部分もあるので、命がけでやらなければただの変人でしかない所ってあると思います。でもそれ以上に舞台をつとめる事は自動的に、演じる側も自分の時間や命を費やしてその芸術に臨むという事になるわけですから、燃焼しなければ、生きている意味すらなくなってしまうのです。
なんちゃって。正月はね、このぐらい真面目に話せば許されるかな(笑)?まさに初日の出をバックに決意をする男のダンディズムじゃ。そうそう、そうやって何か意味のある人生をおくろうとすると、肩も凝りますし歯も痛い。楽しい人生こそわがすべて。だがこの間やっていたつまらないメロドラマで女優さんが「あなたっ!きれい事ってねっ!それで一生通せたらもうきれい事ではなくってよっ!オ〜ヨヨヨ」てな事を言っておったよ。確かに、楽しい人生をずっとおくれるっていうのは楽しい事ばかりやっていたんじゃ出来ないのかも。あれ?ちょっと変だけど・・・・・でもそうなんだよ。
それで30回の年賀状の事も合わせて考えての私なりの結論は「人に遠慮せずに生きよう」という事。もちろん迷惑をかけることはご法度じゃ。これからは生きている喜びを存分に味わえる日々を送りたい、そうすれば人生長かろうが短かろうが悔いはないと思うのです。とくに音楽、自分の演奏・・・・そこで何を描こうとそれは自分のもの!思いきり好き放題にやってみた〜い!やらせて〜!!おねがい〜(号泣)。最初に音楽を始めた時どんな気持ちだったか・・・・ほんとにすてきなものとの出会いだった。感動したしうれしかった。そのままの気持ちをこれからは率直にぶつけて行きたいなと思います。老獪な批評家にあーだこーだ言われてしまいそうって?そんなの気にしてる場合じゃないし、そのお人にも言いたい!「あと10回ぐらいしか年賀状書けないかもしれんよ。あーた、わたしの演奏で悩んでる場合じゃなーいでしょぉ?」て。
2003年、今年もメェ〜いっぱい走るぞぃ!!楽しみ!!どうぞよろしくお願い申し上げます。ジャジャン!!
【7】山口文化情報 any(エニー) vol.36 連載コラム「ピアニストはハードボイルド!ソラソラ」
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第4回 13日の金曜日!!山口コンサート顛末記
この度はコンサーート!!楽しかったなあ!!演奏している方も十分に楽しめるはど、素敵なお客様にいらしていただきました。この場をお借りしまして心から厚く御礼申し上げます。というわけで今回はコンサートの旅日誌です。
9月というと台風のシーズンなので、飛行機が飛ばないということもある・・・で、私はわざわざ5時間かかる新幹線で伺うことにしたが、のんきな萩原さんは飛行機で行くという。「どうかな」とは思いつつ結果は萩原さんの勝ち。いいお天気でした。先に着いた萩原さんは「ゆば」のおいしいお昼を食べて、もうご機嫌。こちらはご存じ「駅弁」で朝昼をしのぐ。小郡駅に着くと文化振興財団の柳さんと渡部さん(このエニーの管理人でもありますよ!)がお出迎え。おおおおお!美男美女ではないか!!それに若いっ! とってもお洒落な柳さんには面識があったのに、もっとオジサマだと覚え違いをしていた私。そして渡部さんのこぼれる素敵な笑顔に、すっかり私の後ろにいたジイ様家族のお出迎えと思い込み、完璧にシカトしてしまった。ごめんなさーい。
すぐさまホールに向かって萩原さんと合流、リハーサル開始。ホールはよく響く素敵な感じで、前に足立さつきさんと来た時のことも思い出す。名手・萩原さんとは本当に安心して組めるごきげんなデュオです。今回はドビュッシーの「牧神の午後の前奏曲」が初陣でしたが、ことのほか気分良くできましたね。めでたしめでたし。楽屋で弁当を食しながら、本番はつつがなく終了。とはいえ当日は13日の金曜日・・・実は何か起こるのではと心配しておったのじゃ。そもそも私は霊には縁がある。前住んでいた家には3人のお化けがいたし、今引っ越した所にも動物霊がいるらしいのだが、私は霊ともなかよくしたいと思っているんですよ。今夜は温泉宿ということもあって、そちらでご対面かと期待は膨らむ。泊まるのは湯田温泉といわれ、かなりの山奥のさびれた感じをイメージしていたが、何とホールの周りより、ずっと都会じゃん!? ホテルもシティホテル並みにきれいだし温泉も素敵・・・夜、ロビーのマッサージ椅子の上に爆睡するは萩原さん?いや、あれは幻ということにしておこう。で、その晩出たかって?実はね・・・出たーーーぁ、ゴキブリ!!!!ぶったまげーー!!マジ、お化けより怖っ。だってこんなきれいな場所にはいないはずのモンだし、もし寝ている間にバックに忍び込んで自宅にまでついてきたら・・・キャーー!!神様、仏様、ザビエル様ーっ!!
翌日はザビエルの教会や五重の塔を見て本当に京都よりも美しい山口に酔いました。今度は観光でも来たいなあ!本当にありがとうございました。またよろしくね。
【6】山口文化情報 any(エニー) vol.35 連載コラム「ピアニストはハードボイルド!ソラソラ」
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第3回 瞬間の技・・・・それって運みたいなものだけど
ピアニストといつも戦いを繰り広げているのが調律師‥・・うそうそ。ピアノに欠かせないのが調律、調律師さんはとっても大事です。ピアニストとの関係もいろいろおもしろいのですよ。
まず調律師は良い人であってほしい・・‥やはり演奏会前どうしても高ぶっているピアニストには、優しく親切な対応が大切。確かに調律も「音を作る」ということでは立派なアートな作業ですが、目的は演奏会を成功させることなんだから、ピアニストを差し置いたような態度や行動は退場ものだと思うんですよね。なんせ弾くのは本人じゃないわけだから、技術的にも楽器の機能的にも、これが最善というものがあっても、ピアニストがそれを嫌ったなら直さざるを得ない!ちょっとかわいそう。このピアノはこうあるべきだと譲らない調律師もいますが、それは腕が良いという事にはならないんですよね。でもそうは言っても腕の良し悪しは即ピアニストにはわかるので、多少感じが悪くてもそれを上回る結果が出せるのなら、それもGOOD!
ちゃんとした調律師はリハーサルも聴いています。それでいろいろ判断しているんですね。また休憩中に絶対手を入れるべきなのに、狂っていてもお構いなしっていう人もいます。もともと「立会い」というのは料金で決まっていて、主催者側の判断で調律師が帰されちゃう時もあります。ある有名な調律師はもともと演奏会の前の短時間で調律を仕上げること自体が間違えているとHP上で語っています。それも真なり。でも音楽が瞬間芸術である以上、その場でいかに短時間の悪条件でもピアニストのリクエストを最大限に活かしつつの調律が出来るのか・‥という事が評価の対象ですよ。それは運などではなく技なのだから。
さてピアニストというのは他の楽器よりも練習が必要な楽器と言われています。事実そうですし、練習量の多さは確実に演奏者に安堵感を与えてくれます。ところがプロになって第1線で活動しだすと、多忙でこれが出来なくなってきます。音楽家を目指してここまで至るまでの生存競争でもきついのに、最後の最後でまた多くの脱落が余儀なくされるのです。さらにはホールやピアノの状態、さらには当日のお客様の好み等が絡み‥‥ここでも瞬間の判断が運命を左右していく。ある意味調律といっしょですね。「あーあ、後からじっくり手が加えられる絵とか小説とかがうらやましーい!」って絵描きに言ったら「手を加えられるからキリがないんじゃ!いいな、音楽家って。適当な所であきらめがついて・・・・」ですと!
【5】山口文化情報 any(エニー) vol.34 連載コラム「ピアニストはハードボイルド!ソラソラ」
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第2回 ベートーヴェンもびっくりの弁当なお話
演奏活動をしていますと、どうしても旅から旅。そこでお世話になるのがお弁当。例えばハンバーガー等は全国どこでも同じ味、コンビニのサンドやおにぎりも、演奏前のちょっと一口!私たちの強い味方です。昔と違いどこに行ってもコンビニがあり、ご利益は「大」ですが「揚げ物」はマズイっス!で、お店で食べようと思ったら、演奏会が終わると夜がおそいのでファミレス、焼肉、寿司、ラーメン・・・・と食生活は当然偏ります。さらにおいしいものに当たらない事も多く、旅といえば「うまいもの巡り」というイメージでしょうが、実際は悲惨?
今や!私の体の半分は駅弁によって生きてるといっても過言ではありません。よく全国「うまい」駅弁大会みたいなのがありますが、駅弁で本当にうまいと思わせられる事は、かなり稀です。例えば浜松駅ならば鰻を食べたい!!しかし・・・・けっこういけるのは三島駅だったり。仙台駅の牛タンだって何もそこまでの味噌味にしなくても・・・肉が縮んで硬くなるじゃん。日本海側に多いカニチラシの生臭くも新鮮味にかける風味・・・でもね、特産がある所は、随分とましです。それを証拠に東京駅における駅弁のまずさ!!最近競合するようになったのでメニューも増えましたが、羽田空港の方がずっとバラエティがあっておいしい。大阪や名古屋に比べても東京駅の幕ノ内のおかずのワンパターンは閉口です。そんな事でかなり味は悪くとも鰻弁当(もともと鰻好きなので)をよく買う私。
さて東北地方に行く時、私はいつも東京ではなく上野から乗車をするので、その日もそのつもりで家を出ましたが、なんか急に鰻が食べたくなって、東京駅までわざわざ行って鰻弁当を買いました。上野駅では鰻弁当をゲットするのは困難なのです。そして東京から新幹線に乗り込みゆっくり鰻を食べ出すと、なんとこの列車は上野を通過!! いやいや、その日まで私は東北新幹線は必ず上野に停まると信じていたから愕然じゃ! 鰻のおかげで仕事に穴をあけずにすんだのでした。また米原の2つ手前の駅で泊まった時。朝も早かったので、朝食はホテルのではなく駅弁にしようと思い、さらに早めにホームに行きました。まだ前の列車が発車せずに停まっていたので、安心してゆっくり駅弁の吟味をはじめた所、「お客さん、これに乗らないと40分米原行きはないよ」と親切な駅員さんの一言。なかなか状況がわからなかったのですが、そう、この日は祝日だったので、あらかじめ主催者が教えてくれた時間の電車は無かったのです・・・・ホテルで朝食してたら当然アウト!またもやお弁当に救われましたが、慌てたため米原まで行ってステーキ弁当をゲット、そのローカルな駅での弁当は食べ損ねてしまった。
たしかにローカルな小さな駅で、そこ限定のお弁当は楽しいですね。その日もホールに行くには早いというので、駅弁をホームで食べてから出発したら、なんと楽屋に同じ弁当が用意されていた・・・・まさに「ジャジャジャジャーン!」、でも「ウンメェ」よ・・・味は。
【4】山口文化情報 any(エニー) vol.33 連載コラム「ピアニストはハードボイルド!ソラソラ」
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第1回 ジェームスと呼んでね!!
みなさん、朝岡さんからバトンタッチ、今月からはピアノの斎藤雅広のおしゃべりです。ここ3年ぐらい、僕は何度も山口におじゃまをしてて、特に下松とはご縁があり毎年お伺いいたしておりました。そしてこの秋、素晴らしい相棒の1人、フルートの萩原さんと楽しいコンサートをさせていただくことになっております。どうぞよろしく!
さてピアニストといえば、夜のしじまに甘いメロディ、やや寂しげな情感と華麗な音色、そしてささやく様なフレージングを傍らの美女に・・・そんなロマンティックな生活をしてる人なんて!! それは僕ぐらいしかいません?! わっははは! 実際はやや暗く神経質な変人系、頭コチコチの真面目なつきあい下手・・・な感じの人も多い。ちょっと屈折した人も結構いるのは、やはり1人で演奏できちゃうからかもね? コンクールの審査員室とか大学の教官室も独特の雰囲気、でも演奏会にまで持ち込んで欲しくないなあ。我を忘れるほど楽しい思いが出来る様なのは、別格に演奏が良くないとダメっていう事なら、もしかすると音楽自体にはそれほど愛情がないって事かもしれない。もともとはすてきだと思ったから始めたんだから、その最初のイメージ通りのピアニストになりたい!って思ってるんですよ! エンターティメントなのだから、もっともっと楽しみたいし盛り上がりたいなあ・・・そういう仲間達が周りに集まってきて、活動の幅がひろがり私は本当に幸せです。
イメージといえば、最近「ピアノレッスン」をはじめ、ピアノ絡みの映画って、なんか密室でのHな煩悩をかきたてる様なのが・・・1度は指揮台でオーケストラを振ってみたいという欲望と同じく、ピアノを弾く女性の背後に忍び寄ってみたいのかな?キャハ! それで大学辞めさせられた人知ってますが、やはりそういうのもロマンティックにいきたいですね。ピアニストがちょっと特殊に見られるとすれば、アコースティックな楽器の中では1番機械に近いので、メカを自在にあつかいながら人の心にまで入り込んで来ようとするのが、いかにも怪しいのです。
007があれだけモテるのは?ポジティヴな行動力と最新秘密兵器の駆使でしょう? んなら、ピアニストだって立派なハードボイルドじゃ! がんばろうっと! これからはジェームスって呼んでね。
クラシック音楽とは、ある意味では大昔のヒット曲なのです。すてきなロマンティックなメロディーに彩られ、当時の雰囲気もそのまま味わう事ができます。作曲家たちの曲は、彼らの人生の喜びや悲しみ、怒りや恋愛などの経験と直接に結び付いていて、それゆえに内容が複雑にとらえられることもしばしばですが、ストレートな人間の「心の歌」であることが基本になっています。また100年以上も演奏されし続けていくと、そこに伝統やウンチクが生まれて、難解なイメージを与えがちですが、逆にそれだけ忘れられない良い曲なんだと考えたいんです。
そんな中でオペラは、音楽に劇が結び付いたものなので、よりわかりやすく直接的に心に語りかけてきます。歌劇「ボエーム」の中の登場人物・ムゼッタは、奔放ながらも愛らしいせつない女心を宿した華やかな女性、そしてごぞんじ蝶々夫人は、いつまでも愛を信じて待ちつづける悲しくも強い女性です。そんな主人公になりきって、また自分の気持ちもその音楽に託して歌い上げる・・・・ステキじゃありませんか! またピアノの曲や歌曲でも、作曲者や奏者のいろいろな思いや、聴いて下さる皆さんのイメージや思い出ともからんで、万華鏡の様に楽しめるものですよ。
人が変革を求める時は、例えば不幸続きな時は縁起担ぎもあって、いろいろ試したりするのも納得できるが、幸せな時もまたそれで何となくマンネリを感じ上昇志向とあいまって変革を選んだりするのだ。それが原因で失速する場合も実に多い。落日の原因はたいてい自分で作るものだ。
それにしても不思議なのは、運気が上昇している途中、坂道を駆け上がっている時は「継続は力なり」的発想になり、下降して落ち目になりそうになっている時は踏み止どまる事を考え、意外に双方とも路線の変更はしないという事だ。本来ならばそういう運気の動いているときにこそ変革が功を奏すはずなのに・・・。
だから大抵の場合、本当の変化は結果がでてから、本人の好むと好まざるに拘わらずに周りからもたらされてしまうのである。
ある日自分が突然老けていて友達が友達でなくなっていたりしたら・・・そんな事がいきなりは起きないにしても、変化とはとかく残酷なものなのである。
私たちの職業は言ってみれば旅から旅へで、「色んな所へ行けていいですね」とか「おいしい名産品を食べられて羨ましい」等といわれる「良い仕事」の感もあるが、実際はそうでもない。忙しく只々移動あるのみで、季節や景色の変化は感じる事が出来ても、味もそっ気もないといったところ。
そういえば、女性から女性に渡り歩く場合にも同じ様な事が生じてくる。そういう生活は一見ロマンチックだが、全員に「愛しているよ」等とマメマメしく対応するか、お互いに割り切って必要な時だけ会う「都合のいい」関係に設定しなければ成り立たず、これもまた情緒深いものとはいえない。
演奏曲目もまた、次から次へと新しいものを目指すのは確かに「勉強になる」事だし、チケットをさばくためには一種の条件でもある訳だが、本当は同じ曲を10年も20年も演奏する事によって生まれる味わい、そこに刻まれる演奏家としての年輪みたいなものこそ、最も大切にしなければいけない財産の様にも思われる。例え同じ演奏家の同じ演奏曲目でも昨日と今日では全く違う、むしろ1度目と2度目が判で押した様に同じ演奏という方が、その演奏家の人間性の欠落を意味すると、私は考えます。
演奏は「情報」ではない。「ああ、あれは1回見聴きしたからクリア、次のものを出して」という感じのニーズには敢えて背を向けてみたいものだが・・・。
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