主な共演邦人アーティスト

NHKラジオ第1放送 2003年4月〜9月 構成作家担当 11:12〜11:22


お時間がよろしいようで・・・・・・斎藤雅広

2003年9月22日(月)〜26日(金)放送分(23日は祝日のため除く)

9月22日(月)

ショパン:幻想即興曲(ピアノ) アダム・ハラシェヴィッチ (エフアイシーANC-89(フィリップス等で出ているのと同じ音源です))

ショパンの幻想即興曲、ピアノにあこがれている方にとってはおなじみの名曲です。ピアノはポーランドのピアニスト、アダム・ハラシェヴィッチでした。

最近ピアノを勉強なさっている大人の方が増えています。どうしたらうまくなるのか?の答えは当然「練習しなさい!」というものでしょうが、わかっていてもなかなか大変です。やはり時間を作ることは難しい。私は一人暮らしなので、家事や掃除をためてしまうと家が大変なことになってしまうのですが、そういう時も「人間、時間をかけて出来ないことはない」と言い聞かせつつ、1つ1つ用を済ませていくしか方法がないようです。おりもおり、火星がぐっと地球に近づき、人類に大きな夢を与えてくれています。火星に行くということとピアノがうまくなるというのも、時間をかけるという意味では同じくらい大変ですてきでロマンティックに思えます。ショパンはそんな指の練習のための作品にも楽しめる曲をたくさん書いています。

あの「別れの曲」「革命のエチュード」もそうした作品ですが、今日はピアノの黒鍵をフルに使う「黒鍵のエチュード」をお聴きいただきましょう。ピアノは同じくアダム・ハラシェヴィッチです。

ショパン:黒鍵のエチュード(ピアノ)アダム・ハラシェヴィッチ (エフアイシーANC-89(フィリップス等で出ているのと同じ音源です))


9月24日(水)

ユー・アー・ニアラー (ヴォーカル)キャロル・スローン (ビクターVICJ−53)

リチャード・ロジャースとロレンツ・ハートのコンビによる名作「ユー・アー・ニアラー」。歌はキャロル・スローンでした。

携帯電話の請求額が急に増えてきたと思うとき、まさか犯罪行為が行われてるわけでなし、正統に理由を探せば、恋人が故郷に帰っていて遠距離恋愛の始まりの合図だったことに思わず微笑んでしまうことはありませんか。時は金なり・・・通話時間がエスカレートして来て5万円、7万円とかなりの額になってきても、二人でいっしょにいるときのレストランでのすてきなデートやプレゼントに比べたらなどと、いやいや、愛しているって恐ろしい。普段はトイレットペーパー1つ買うにも、百円を気にして、マーケットを何軒もはしごしたりするくせにです。普通に1000円で売ってるコーヒー豆も580円にバーゲンになるのをずっと待っていたりもしています。何が一番自分にとって大切か、これがその人にとっての価値観で、何よりも勇気のいることはこの価値観を曲げることです。そして価値観を曲げる勇気は自分が大切に思っているもののためにしか、使えないものです。

携帯もメールもなく恋愛をしていた時代、いま踊っている相手を僕に変えてみない?そしたらもう2度とパートナーを変えたくなくなるよ・・・とフレッド・アステアが歌った「チェンジ・パートナーズ」。今日はシナトラでお聴きください。

チェンジ・パートナーズ (ヴォーカル)フランク・シナトラ (リプリーズ 9・46948ー2(輸入盤)タイトル「シナトラ&ジョビン」)


9月25日(木)

バーンスタイン:歌曲集ピーターパンより「ピーター・ピーター」 (ソプラノ)ロベルタ・アレクサンダー (ピアノ)タン・クローネ (ETCETERA KTC−1037(輸入盤))

ウェストサイドストーリーの作曲者として、また指揮者としても有名だったレナード・バーンスタインが作詞作曲した歌曲集「ピーターパン」から「ピーター・ピーター」。ロベルタ・アレクサンダーのソプラノでおおくりしました。

さて今日はとてもくだらない話・・・・唐突ですがわたしは「エビ」って本当にたくさんいると常々感じているのですよ。日本人は世界一エビが好きというのを聞いたことがありますが、フレンチ、イタリアンはもちろん洋食屋さんに行けばエビフライ、天麩羅屋さん、おそば屋さん、和食、懐石でも最重要食材ですし、中華だってチリソースやチャーハンに欠かせないし、お寿司やジャンクフード、即席のカップ麺にいたるまで、エビエビエビ、佃煮やお菓子にと・・まあ、ここまで食べてしまってよいのですかという感じですね。でも今までエビが不足したという話はあまり聞きません。本当に地球上にエビっていっぱいいるんだなぁって・・・・いかがですか。さらに私は「みかん」もいっぱいあるなあ、いや、安いなあと思うのです。大体10個300円から400円、バケツに入れて売られたり箱売りはもっと安く、ぶどうの実とは違い1つ1つ食べ応えがあるし、1個30円で売って、採算は合うのかしら?と妙に心配してしまいます。等と思いつつ300円が230円ぐらいに値引きされるとうれしそうに買う私。せめて大切に食べてあげましょうね。

では音楽は真面目に。収穫の喜びに踊る人々というイメージでしょうか、民族色豊かなドヴォルザーク作曲ピアノ五重奏曲の第3楽章を、私・斎藤雅広とチェコのヤナーチェク弦楽四重奏団の共演でお聴きいただきましょう。

ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲イ長調作品81から第3楽章 (ピアノ)斎藤雅広&ヤナーチェク弦楽四重奏団 (ナミレコードWWCC−7305)


9月26日(金) *この回は地震に伴う報道のため放送されませんでした

リムスキー=コルサコフ〜シフラ編:熊ん蜂が飛ぶ (ピアノ)ジョルジュ・シフラ (キング・インターナショナルKKCC−4341)

ただ今の演奏、ものすごかったでしょう。天才ピアニスト、ジョルジュ・シフラの超絶的な名演、リムスキー=コルサコフの熊ん蜂の飛行を、シフラ自身が編曲したものです。

シフラはこの派手なスタイルのために、日本の批評家達が表面的なことだけしか捉えられなかったために、思いのほか日本では評価が低くなってしまいました。しかしそれは大きな間違えで、古典のレパートリーまできちんとこなせる実に魅力的なすばらしいアーティストですし、NHKに残された来日した折の録音は、心有るマニアの間でいまだに語り草となっています。いったん良いとなるとブームになってしまう日本では、逆の場合になるとその演奏に出会うことすら難しかったりします。ジョルジュ・シフラ・・・・皆さんぜひ聴いてみて下さいね。

さて私のこの番組との出会いは、子供達への夢質問箱へのゲストで出演したことでした。こうして出会う機会を与えられるということは本当に幸せなことです。そして今日がこのコーナーの最終日です。半年間本当にありがとうございました。またどこかでお目にかかれる日をたのしみにいたしております。それではお別れに私・斎藤雅広の演奏でラフマニノフのパガニーニの主題によるラプソディーよりお聴きください。

ラフマニノフ:パガニーニの主題によるラプソディ (ピアノ)斎藤雅広 (コロムビアDENON COCQ−83547)


・・・7〜8月は高校野球中継のためお休みでした・・・





鬱陶しきは心地よきもの・・・・・・斎藤雅広

2003年6月23日(月)〜27日(金)放送分

6月23日(月)

ドビュッシー:わたしの心に涙ふる (ソプラノ)足立さつき (ピアノ)斎藤雅広 (サクランボウATCO-1022)

ドビュッシー作曲、わたしの心に涙ふる。演奏はソプラノ足立さつき、ピアノは斎藤雅広でした。今週は「鬱陶しきは心地よきもの」というテーマでお届けいたします。

いまの曲の「巷に雨がふるように、わが心にも涙ふる・・・」という憂鬱な詩を思い浮かべてみながら、自分の心の中にふと雨が降った時のことを考えてみると、それは「毎日同じ時間に、決まって彼女の電話がお話し中の時がある」という事でした。いったいそれがなにを意味しているか、誰にでもすぐ分かりますね。心の雨はぬぐうこともできなければ、それをよけてどこかに隠れることすらできないもの。降り始めてしまったら、それがやむまでじっと待つしかないのです。でもそれがあまりに早くやんでしまったら、今度は耐えがたい渇きが襲ってきます。悲しみにみちた渇きほど苦しいものはありません。それゆえに「心の雨」はそっとやさしい潤いを与えてくれていた心地よいものだったのかもしれないのです。いまは人間は悲しいから泣くのではなく、涙もまた渇こうとする心を癒すために流れる「恵み」なのだと感じています。

ドビュッシー作曲の美しい曲、未練。演奏は同じく、足立さつきのソプラノ、斎藤雅広のピアノです。

ドビュッシー:未練 (ソプラノ)足立さつき (ピアノ)斎藤雅広 (サクランボウATCO-1022)


6月24日(火) *この回は国会中継のため放送されませんでした

アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー (ヴォーカル)フランク・シナトラ & バーブラ・ストライザンド (東芝EMI TOCP-8066(シナトラ&フレンズ/デュエッツ))

フランク・シナトラとバーブラ・ストライザンドでアイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー、「君に夢中」でした。
さて今日の主人公は二人の男女。狭い中華料理屋で見つめあっています。

「君が好きだ。大好きだ」
「うん、ありがとう」
「本当に好きだ!」
「わかった」
「君はぼくの生きる光だ。宝物なんだよ」
「ありがとうね」・・・二人の会話は途切れる事なく続きます。
「ぼくは今まで気がつかなかったんだ。ぼくは自分が植物だってことはわかってたから、努力していっぱい枝も広げた。でも君が現れてから違うんだ。」
「どんなふうに?」
「君は太陽だったんだね、ぼくにとって。今ぼくは花が咲こうとしてるんだよ。君が教えてくれたんだ、ぼくが花が咲く植物だということを」
「言いすぎだよ」
「大切にするよ、幸せにするね」
「ほんとうにありがとうね。でもわたしはきっとそんな価値がないわ」
「何でそんなことを言うんだ!君がこうして目の前にいるだけで、生きていく力を与えられるんだよ、ぼくの人生の全てなんだ」

さてさて彼らの周りにも何組かのカップルがいましたが、みんな食事もそこそこにため息まじりで店を出て行きました。さあ、はたして他人の幸せとは、かくも鬱陶しいものなのでしょうか? でも紛れもない事実は、みんな耳をそばだてていたということです。

それではナタリー・コールの歌で「ラヴ」。お聴きください。

ラヴ (ヴォーカル)ナタリー・コール (ELEKTRA WMC5-400(日本盤)(タイトル:アンフォゲッタブル)


6月25日(水) *この回は国会中継のため放送されませんでした

プーランク:ノヴェレッテ第1番 (P)斎藤雅広 (コロムビアDENON COCQ−83484)

プーランク作曲、ノヴェレッテ第1番、ピアノは斎藤雅広でした。ノヴェレッテとは「ささやかな物語」を意味しますが、今日の主人公はゆったりとお昼寝中でした。すると外のほうから、にぎやかな笑い声が聞こえてきます。

「え?だれだよ?なんだ?ん?あいつらか。腕なんか組んで二人でデレデレして、こっちを見ていやがる。何を笑ってんだよ?なにがおかしいんだ?まったく鬱陶しいやつらだ。俺がここで芸でもするかと思ってんのか?ばかばかしい。どれ、顔でもじっくり拝んでやるか」・・・・そうつぶやくと動物園のチンパンジーはするすると高い木の上にのぼり、そのカップルをじっと観察し始めたのです。当のカップルはというと「あ、ここチンパンジーだよ。ねえ、なんかこっち見てるよ、ヤキモチ妬いてんの?おお、木に登ったよ。うまいうまい」と超ご機嫌。隣の柵ではアザラシが寝ているところに、子供たちが大声で「起きてよー」と絶叫していました。いまは人気のアザラシですから、かなり鬱陶しそうに寝返りを打っているだけでも大拍手です。そして先ほどの仲良しカップルはその先の所で、ライオンににらまれほえられて、思いっきり腰を抜かしていました。

自由のない空間にいる動物たちの憂鬱は、そうは言っても命を狙われる不安のない平和の心地よさの上に横たわっています。とても穏やかな悲しさ・・・それは人間が古代から感じてきた憂鬱そのものです。では古代をモティーフとしたサティ作曲のジムノペディ、斎藤雅広のピアノでお聴きください。

サティ:ジムノペディ第1番 (P)斎藤雅広 (コロムビアDENON COCQ−83484)


6月26日(木)

ザ・ジェントル・レイン (ヴォーカル)トニー・ベネット (CBSコロムビア CK9272(輸入盤)(タイトル/ザ・ムービー・ソング・アルバム))

トニー・ベネットでザ・ジェントル・レイン、静かな雨でした。今日のエピソードはそんな雨のふる、ある梅雨のこと。彼女と二人で食事に出かけた時のことです。レジを済ませようとしていると、気のきいた店の主人が「お連れの女の方にどうぞ」と一輪の花を渡してくれました。彼女が階段を下りてくるのが見えたので、見つからないようにそれを後ろに隠しながら店を出て、少ししてから「これを君に」と差し出しました。その時に、はじめてよく見たのですが、なんとも風采のあがらない、つまらない花でした。しかし彼女は思いのほか喜んでくれたのです。そして何日かたったあと、不意に彼女から「ねえ、あの花、なんていう花かなあ?辞典にものってないけど。とてもきれいに咲いているの」と言われて、正直とても驚きました。あんな貧弱な花がきれいなはずもなかろうに。

「あの花がいまも元気に咲いているのは、それは君の心が咲かせているんだよ」・・・そんなキザなせりふはさすがに言えませんでしたが、大事にしていてもらえて、本当にうれしかったのです。「きっとすごくきれいな色なんだろうね」と答えると「そうよ、とても」という弾んだ声が、心の中にまで一杯に響きました。きっと梅雨の長雨も、二人の間に咲いたどこにもないほどに美しい貧弱な花に、ずっとエールを送ってくれているのだと感じたのです。「君のことでいっぱい」ユー・ゴー・トゥー・マイ・ヘッド、この曲をトニー・ベネットでお聴きください。

ユー・ゴー・トゥー・マイ・ヘッド (ヴォーカル)トニー・ベネット (CBSソニー SRCS-6565(日本盤)(タイトル/パーフェクトリー・フランク))


6月27日(金)

ウォーク・ビトウィーン・レインドロップス(ヴォーカル)メル・トーメ (ビクターエンターテインメント コンコードVICJ−60631 (日本盤)(タイトル:リユニオン))

メル・トーメの粋なヴォーカルで、ウォーク・ビトウィーン・レインドロップスでした。さて雨が降れば次は晴れに決まっていますね。「雨ふって地固まる」とも言いますが、ひと波乱あってそれで以前より好転するとの意味合いから考えても、やはりどこでも雨のイメージは憂鬱さからは抜けられないようです。だから雨が上がって虹が出たり、晴れ間がのぞくことで幸せが訪れるようなイメージに思うのは、世界共通なようで、人間の感性は「悪いことの後は必ず良い事があるように」という願いを常に意識しているといえるでしょう。

でも実際の人生では雨の後は必ずしも晴れとは限りません。スカッと気持ちも生き方も切り替えるには、その雨の時期によっぽど努力をしていないと、そうもいかないでしょうね。でも雨の時期に努力をするのも、なんとなくつらすぎるし、雨のイメージはそれをたたずんで眺めている風情が似合っています。人間はとてもすばらしい・・・・悲しみもそして寂しさもつらさも、それを味わう自分の心のどこかに、安らぎにも似た心地よい場所を失ずに受け止めているのですね。だからこそその苦難や悲しみも振り払うことができるのです。

ヒヤズ・ザット・レイニー・デイ、ディック・フェイムズの味わい深いヴォーカルでお聞きください。

ヒヤズ・ザット・レイニー・デイ  (ヴォーカル)ディック・フェイムズ (オーディオファイルACD−200(輸入盤)(タイトル/キープ・イット・シンプル)




素敵な「大人の男」の季節に・・・・・・斎藤雅広

2003年5月19日(月)〜23日(金)放送分

5月19日(月)

マイ・ロマンス (P)斎藤雅広 (コロムビア DENON COCQ83484)

リチャード・ロジャースの名曲、「マイ・ロマンス」。ピアノは斎藤雅広でした。季節が良くなってくると、気持ちも軽くなってくるものですが、だからと言って全てがうまく行くわけではありません。みんなが開放的になる夏や、ちょっとセンチになる秋、淋しさにかられる冬とちがって、花の季節を終えた春は、季節の美しさとは別に、自分の中のロマンスにはやや臆病であったりするのです。実は失恋をするのは、春が一番多いという事です。でも季節がそれを忘れさせてくれるので、それほど深刻な顔とは町で出会いませんね。だからこそ大胆な夏に、大きな期待を持つのです。逆に言えば恋の予感や芽生えがそっと頭をもたげるこの春の終わりに、さりげなく、そして燃えるような気持ちでいられる人こそ、本当の意味で多くの魅力に包まれた人だと言えるでしょう。

今週はそんな素敵な大人の男たちの魅力が溢れた曲をお届けしましょう。今日のもう1曲はあの映画「カサブランカ」のテーマでもある「アズ・タイム・ゴーズ・バイ(時の過ぎ行くままに)」。タフな男が恋に傷つきそしてその恋と再開した時に見せた激しさと静かな優しさ。映画館を出たあと、だれもがコートの襟を立てて、自分が男である事に酔ってしまいそうな気分でいたはずです。では「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」、歌はフランク・シナトラです。

アズ・タイム・ゴーズ・バイ (歌)フランク・シナトラ (EMI [LP/輸入]キャピトル SM1676) *タイトルは「ポイント・オブ・ノー・リターン」/CDは未確認


5月20日(火) *この回は国会中継のため放送されませんでした

光さす窓辺 (テノール)フランコ・コレルリ/フランコ・フェラリス指揮&管弦楽団 (東芝EMI EMIクラシックス TOCE7300[国内盤CD])

テノール歌手のフランコ・コレルリで「光さす窓辺」をお聴きいただきました。オペラ歌手の魅力、特にテノール歌手の輝かしい魅力は、かなり本能的なものだと言われています。もともとテノールはオペラでは2枚目役を担当する事が多く、その歌の殆どは愛を熱く歌い上げたものです。まさに自分の全エネルギーを使って、人間の限界とも思われる様な声で、ひたむきに心をぶつけるようにして歌うテノール歌手たちには、男の魅力の原点みたいなものを感じぜずにはいられないでしょう。フランコ・コレルリは現在のテノール歌手たちよりも、ふた回りぐらい大きなスケールを持った、直情的な激しい歌い方で知られる伝説的な存在ですが、容姿もかなりかっこよく、相手役のソプラノ歌手がウットリして自分の出番を間違えたほどでした。

さて「生まれながらの美男美女」とは、うらやましがられるばかりですが、実際は大変なのです。普通に生まれていればこそ、少しの素敵さが大きな効果を呼びますが、彼らがナマの人間として何か行動を起こした時に、それが本人の容姿以下であったり、そぐわないものであったりすると、失望感も手伝って余計にぶざまに見えてしまうんですよね。小細工なしにストレートに、思いの丈をひたむきに押せる事こそ二枚目の特権。それではコレルリでもう1曲「オー・ソレ・ミオ」。女性としてもこんな男性から、恥ずかしくもなくここまで好きだと叫ばれたら、たとえ失神しても不名誉ではありません。

オー・ソレ・ミオ (テノール)フランコ・コレルリ/フランコ・フェラリス指揮&管弦楽


5月21日(水) *この回は国会中継のため放送されませんでした

シャレード (歌)ジョニー・ハートマン (ビクター/MCAレコード[LP]VIM−5593) *タイトルは「アイ・ジャスト・ドロップト・バイ・セイ・ハロー」/CD化されています。

ヘンリー・マンシーニの名曲「シャレード」。歌はジョニー・ハートマンでした。ジョニー・ハートマンの低い歌声も、それだけで男性的な魅力がいっぱいでしたが、御存知の様にこの曲は映画「シャレード」のテーマ曲。ちょっと歳をとったケーリー・グラントがまたとても素敵でしたね。そして主演女優はオードリー・ヘップバーン。ヘップバーンと言えば今度は素敵な女性の代名詞のような人です。とてもファッショナブルで、可愛いさとエレガントさが同時に内在している・・・彼女のそうした魅力はヘップバーン自身にとどまらず、主演した映画そのものの魅力になっていました。

でもこの「シャレード」でもおわかりの様に、素敵なのは彼女だけではなく共演した男優もまた、みんな素敵におしゃれだったのです。ヘップバーンの魅力が共演者をも光らせたのも確かですが、彼らがいたからこそ、ヘップバーンもまた永遠の恋人の様に魅惑的だったのでしょうね。やはり良い男を作るのは良い女、良い女を作るのは良い男なんですね。素敵な人と出会ったら、それは自分を磨くチャンスでもあるのです。そしてもちろん、幸せになれるチャンスでも。
ではヘップバーン主演の映画「いつも二人で」から、やはりヘンリー・マンシーニが作った主題曲「いつも二人で(ツー・フォー・ザ・ロード)」、ピアニストのジョージ・シアリングの弾き語りでお楽しみ下さい。

いつも二人で(ツー・フォー・ザ・ロード) (歌&P)ジョージ・シアリング (東芝EMI[LP]コンコード・ジャズ ICL80185) *タイトルは「ツー・フォー・ザ・ロード」カーメン・マクレエ&ジョージ・シアリングのデュオアルバム/CD化されています。


5月22日(木)

ホワイ・ドゥ・ピープル・フォール・イン・ラヴ(人はなぜ恋に落ちるのか) (歌)トニー・ベネット (CBSソニー 32DP494[国内盤]) *タイトルは「アート・オブ・エクセレンス」

トニー・ベネットの歌で「ホワイ・ドゥ・ピープル・フォール・イン・ラヴ(人はなぜ恋に落ちるのか)」をお聞きいただきました。人が恋に落ちる時、もちろん運命の出会いのそれのように、ドラマティックな場合もありますが、とても些細な事から始まる場合もあります。その人の何気ないしぐさや、ふとした時の優しさがいつもとは違う魔法を与えてくれて、今までにない感情を持つようになったりしてしまう。イメージ1つとっても「男の優しさ」と「優しい男」では、同じ様な言葉であっても全く意味が変わってくるのです。さて素敵な「大人の男」の優しさには、愛のために、そして誰かのために、無駄な時間を誠実に尽くすことが何よりも必要です。

思いが残っていた昔の恋人に出会い、語り合ううちに、もう一度やりなおしてみようかという話になる。お互いのいい事も悪い事も知り尽くしている、それにもう大人だから失敗もしないだろう、何よりもまだ愛があるのだから。でも心のどこかでは、またうまくいかないって事がお互い実はよくわかっている。でもまた始めるんだ。この恋は通り慣れたハイウェイのように、また同じところで曲がらなければいけないんだろうけれど。
そんな素敵な歌「アイム・イン・ラヴ・アゲイン(また恋してる)」を同じくトニー・ベネットでお聴き下さい。

アイム・イン・ラヴ・アゲイン(また恋してる) (歌)トニー・ベネット (CBSソニー SRCS7936[国内盤]) *タイトルは「レディーたちに乾杯!」


5月23日(金)

ワン・ノート・サンバ  (歌)フランク・シナトラ&アントニオ・カルロス・ジョビン (ワーナーブラザース リプリーズ 1033−2[輸入CD.USA]) *タイトルは「シナトラ&カンパニー」

「ワン・ノート・サンバ」、歌はフランク・シナトラとアントニオ・カルロス・ジョビンでした。シナトラはもともとアイドルではありましたが、年齢と共に「素敵な男性の代名詞」の様な存在になりましたね。今の歌も貫禄とゆとりを感じさせてくれました。ただエレガントなだけではなく喧嘩もすれば、非常にわがままだったり・・・そんな性格の部分も彼の魅力として受け入れられてしまうのが、またシナトラの凄い所です。シナトラの歌はさらりと流している感じではありますが、実はシリアスに内容を表現していて、思いのほか深いアプローチがなされています。また発音等にも厳密に気を遣い、そうした心意気が「これがほんとのうまい歌さ」という自負につながっているのでしょう、独特の存在感と自信に溢れた男のイメージが、歌からも充分に感じられます。

音楽的にはフレージングの最後の所が実に丁寧で、そこにさりげない優しさや悲しさを感じとることができます。自分の仲間やその家族にもとても優しかったシナトラ。一見やりたい放題の少年の様でいながら、じつは細やかな神経と思慮の深さが働いているあたり、母性本能を感じさせつつ実は夢心地に誘う大人の男・・・多いに学びたいですね。この曲はこんな風に歌って欲しい、まさにそんな感じの名唱をお届けしましょう、グレン・ミラー楽団でおなじみの「ムーンライト・セレナーデ」。歌はフランク・シナトラです。

ムーンライト・セレナーデ (歌)フランク・シナトラ (ワーナーミュージック リプリーズ WPCP4682[国内盤CD]) *タイトルは「ムーンライトシナトラ」



春を思い起こすしらべ・・・・・・斎藤雅広


2003年4月21日(月)〜25日(金)放送分

4月21日(月)

ショパン:夜想曲嬰ハ短調 遺作 (P)斎藤雅広 (コロムビア DENON COCQ-83484)

最近この曲をどこかでお聴きになった方も多いと思います。映画「戦場のピアニスト」でもすっかりおなじみになりました、ポーランドの作曲家ショパンの夜想曲嬰ハ短調遺作です。演奏は斎藤雅広のピアノでした。さて遺作というのは「出版もれ」した曲のこと、よって晩年に書かれたものということではありません。この曲はどこか物悲しく、作曲者の孤独な姿を思い浮かばせるものですが、同時にピアノの音の美しさを、これほど見事に表現したものも珍しく、きらびやかさも感じさせます。さぞやショパンも己の魂を削るように作曲したのでは・・・と思ってしまいますが、実は作曲されたのはまだ彼が健康で希望にもえていた若いころ、さらにピアノ協奏曲を弾く前の練習曲として、姉のために書かれた作品なのです。こんな美しい旋律が、実はあまり特別な深い意味もなく、何気なく書かれてしまうあたりが、逆にショパンという人の天才を感じますね。

天才の若かりしころ・・・・これもまた春のイメージそのものです。ピアノという楽器を前にして楽想が絶える事なく溢れ出でる、そんな泉の様なイメージ。ショパンはとても素晴らしいピアニストでもありました。演奏はダイナミックではなく、美しい時間に色をつけていくような繊細なものだったとされています。旋律の美しさだけではなくその音が作り出す色合いの美しさと変化が、ショパンの魅力そのものといえ、またそれがピアノという楽器の魅力のすべてでもあります。まさにそんなピアノの音色が、生きているように大きく羽根を広げる作品の1つ、若き日のショパンの代表的な作品、練習曲集。「革命」や「別れの曲」といった有名曲の中にひっそりと美しく香るように佇む作品10の第11番をお聴きいただきましょう。ピアノはヴラディミール・アシュケナージです。

ショパン:練習曲変ホ長調作品10-11 (P)ヴラディミール・アシュケナージ (ユニバーサルミュージック DECCA 414―127)


4月22日(火)

トスティ:魅惑 (S)イロナ・トコディ (P)斎藤雅広 (EXTON オクタヴィアレコード OVCL−00008)

イタリアの作曲家トスティが作った歌曲「魅惑」。演奏はソプラノ、イロナ・トコディ、ピアノは斎藤雅広でした。春は、冬の寒さが終わり暖かくなってくることだけでも、どこか気持ちが弾み、恋心も芽生えてくる季節でもあります。音楽の中にも、ただ「うきうきと楽しい」だけではない、恋の魅力にとらわれた迷える心を描く作品が、この「花々に彩られる美しい季節・春」をモチーフにして、数多く遺されています。それらはすべてが、例外なく美しい作品です。「君がくれた花には何が入っていたの?/それに触れると心が震え、その香りに思いがかき乱される/君の優美なそぶりと共に魅惑が訪れる/君が行くところで大気が震え、その足元には花々が現れる・・・・」パリアーラの詩に描かれたトスティの歌曲「魅惑」は、美しい花の魅力に魔法をかけられた若者の姿でした。

しかし不幸にもこの恋する季節「春」に失恋をして、孤独になった人たちにも春はそっと希望や憧れを抱く心へといざなってくれるようです。まるで咲き乱れる花々が慰めてくれるかのように・・・春というのは1年中でもっとも優しい季節なのかもしれませんね。「穏やかな風が吹き起こる/ああ、心地よい風、新しい響き/哀れな心よ、おじけずに/世は日毎に美しく花で満たされる、遠くの深い谷間でさえも/哀れな心よ、悩みを捨てよ」このウーラントの詩に曲をつけたのは、有名なシューベルトでした。シューベルト作曲「春の信仰」、演奏はエリー・アメリンクのソプラノ、ピアノはイエルク・デムスです。

シューベルト:春の信仰 (S)エリー・アメリンク (P)イエルク・デムス (EMI エンジェル CC30−9018)


4月23日(水)

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番 第3楽章 (演奏)ボロディン三重奏団 (シャンドスCHAN8404)

お聴き戴いたいかにも春の戯れを感じさせる曲は、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番から第3楽章。演奏はボロディン三重奏団でした。メンデルスゾーンといえば、有名なピアノ曲「春の歌」を作曲した人物。神童として育ちその溢れる才能のために過労で若くしてこの世を去りました。ヴァイオリン協奏曲、そして結婚行進曲もおなじみですが、彼は豊かな家庭に生まれ育ったという事もあり、その音楽はいつも春のような幸福感と叙情性に包まれています。そしてそこにいつも若々しさが存在します。また彼は非常にピアノがうまく、クララ・シューマンは「まるで羽根の生えたような演奏」と証言しています。羽根が生えている演奏・・・・それは彼の作風にも通じることです。まるで夢の中を飛び歩くような、彼の心の中にこそ「春」が実在していたのかもしれません。

やはり若くしてこの世を去り、多くの曲で春を感じさせる作曲家にモーツァルトがいます。モーツァルトの音楽の中には本当は悲しみがあるとか、悪魔が人間をからかうために作った音楽であるとか、その作品の完成度が高いためにいろいろ評論もされていますが、やはり心を無にして聴けば、そこには天上で遊ぶ幸せな空間が存在します。人に安らぎを与え暖かく包み込む「春」をまたそこに感じることが出来るでしょう。メンデルスゾーンと違い、生活が苦しかったり活動を妨害されたり不幸な目に会う事も多く、金銭のために書かざるを得なかったこともある彼は、きっと想像上の幸せや理想郷をかなり貪欲に見続けたに違いないのです。その思いが今のわたしたちに春の訪れを与えてくれることを考えると、やはり彼の音楽には感謝の気持ちをもって応えるのがふさわしいのだと思います。それではシモン・ゴールドベルグのヴァイオリン、ラドゥ・ルプーのピアノで、モーツァルト作曲ヴァイオリンソナタ第34番の第1楽章を時間までお楽しみ下さい。

モーツァルト:ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 第34番 K.378第1楽章(F.O) (V)シモン・ゴールドベルグ (P)ラドゥ・ルプー (LONDON FOOL-23136)


4月24日(木)

ドビュッシー:春が来た(S)足立さつき(P)斎藤雅広 (サクランボウ・レーベル ATCO1022)

お聴きになった曲はフランスの作曲家ドビュッシーが青春時代に書いた歌曲「春が来た」。ソプラノは足立さつき、ピアノは斎藤雅広でした。この歌では春を「長い追放のあとに歓喜の声に迎えられたおしゃれに着飾った王子様」と例えています。そして「よろこびに踊る王子の右肩には「つぐみ」左肩に「夜うぐいす」が乗っていて、その2羽の小鳥の歌を聴こうと花々が頭をもたげると、つぐみは愛されないものたちをからかう口笛を、夜うぐいすは恋に迷うものたちの歌を聴かせる」とあります。春の恍惚感を詩的なイメージの中に浸らすことの出来る作品でしたね。ドビュッシーは18歳のころ、彼のパトロンであり、上品で教養溢れる30台半ばのヴァニエ夫人に恋焦がれ、美しいソプラノで歌を歌えることもできた夫人のために、数多くの歌曲を作曲しています。この作品も含めて、それらは若者の作とは思えないほどに完成度が高く、情緒豊かなロマンティックな世界を映し出しています。

さてわたしたちがヨーロッパの春の訪れを考えた時に、森の中でいっせいに妖精たちが目覚めて、喜びいっぱいに動き回るイメージってありませんか?妖精は冬眠をするわけではありませんが、そうイメージさせるのは、おそらく彼らに昆虫の羽根がついているからでしょう。よく注意すると天使達は鳥の羽根で、これで区別が付くのです。妖精は小鳥とも友達です。秋になるとつばめと共に小鳥達もどこかに行ってしまうので、妖精は森で寂しく暮らしますが、冬には枯葉で髪飾りを作り、時を数えながら春に歌う恋の歌を作り、春が来るとその歌を小鳥達に教えます。そんなエスプリ豊かな詩にフランスの作曲家フォーレが曲をつけました。「歌う妖精」、演奏は同じく足立さつきのソプラノ、斎藤雅広のピアノです。

フォーレ:歌う妖精 (S)足立さつき (P)斎藤雅広 (サクランボウ・レーベル ATCO1022)


4月25日(金) *この回は国会中継のため放送されませんでした

ドビュッシー:アラベスク第1番 (P)斎藤雅広 (コロムビア DENON COCQ-83484)

有名なドビュッシーのアラベスク、春を感じさせる1曲でもあります。ピアノは斎藤雅広でした。アラベスクというのは本来「アラビア風に」という意味で、アラビアの美術や彫刻に刻まれた装飾的な紋様を指しています。やがてヨーロッパ音楽の世界で、その紋様のように装飾を織り成すような音の動きのある作品を、アラベスクと呼ぶようになっていきました。

さてもしこの世に花というものがなかったら、おそらくこの紋様というものも、生まれなかったか、もっとつまらないものでしかなかったはずです。色合いといい形といい、まさに自然が作り出す芸術品が咲き乱れることで、人間の心にもさまざまな思いが生まれてくるのが春という季節でしょう。満開の桜は確かに美しい・・・・でもそれが葉桜になってしまった時に、とても残念そうに、「もう散ってしまった」等と言ってしまわないように。なぜならあの葉桜の色合いは、よく見れば、実にアンティークなヨーロッパの織物に見られる色使いなのです。常に美を見出そうとしている人は、より豊かな心の悦びで時を満たすことが出来るにちがいありません。

またさりげなく道端に咲くような花にも安らぎを見出すことも出来ます。パンジーと並んでわたし達をそっと悦ばせてくれるひなぎく。さまざまな咲き方をし、花色も豊かですが、もともとは一重の白い花でした。群生しているせいか、いつもご機嫌よく見える花、そしていつの間にか夏の入り口へといざなってくれる可愛らしい花。この花にロシアの作曲家ラフマニノフがすばらしい曲を捧げています。ラフマニノフ作曲、歌曲「ひなぎく」。ジョアン・ロジャースのソプラノ、ハワード・シェリーのピアノでお聴き下さい。

ラフマニノフ:ひなぎく作品38-3 (S)ジョアン・ロジャース (P)ハワード・シェリー (シャンドスCHAN9477)