主な共演邦人アーティスト

発行 (株)音楽の友社/03−3235−2111

2009年1月号 ザ・スーパートリオ
2009年11月号 日本のピアニスト50人が選ぶ 究極のピアノ名曲50
2007年9月号 9人と一組の豪華スターとの競演でデビュー30周年記念コンサートを
2003年1月号 《展覧会の絵》を中心としたデビュー25周年CDとコンサートは
               敬愛するホロヴィッツへのオマージュ
2001年2月号 ピアノ講座の課題曲をCD化、『マイ・ロマンス』をリリース
2000年11月号 ユニークなピアニストのまっとうな願いとは
1999年4月号 「音クリエイター」
1998年3月号 「人アト・ランダム」



2009年1月号(P130)

ザ・スーパートリオ


 足立さつき(ソプラノ)、赤坂達三(クラリネット)、そして斎藤雅広(ピアノ)という、それぞれソリストとしても活躍する3人が、トリオを組んで活動している。その名も「ザ・スーパートリオ」
 「8年ほど前に、あるソプラノ歌手のCDを聴き、こんなに素敵な伴奏をする方と共演したいと思ってお願いしたのが斎藤さんだったんです。何度か一緒に演奏させていただくうちに、どなたかとトリオでやろうということになり、赤坂さんに白羽の矢を立てさせていただきました(足立)」
 「斎藤さんとは、僕が日本でデビューして数年くらいのときに初めてお会いして、それから何度となく共演などをさせていただきました。足立さんとは、ステージなどでよくお会いしていたんですけれど、ある日突然“赤坂さん、お話があります”と(笑・赤坂)」
 「僕は一緒に仲良く音楽できる仲間が一番大事だと思っているので、できる限りみんなが楽しくできることを考えているんです。足立さんがソプラノですから、高音域のヴァイオリンやフルートですと、やはりぶつかってしまいます。赤坂さんのクラリネットは音色もすばらしいですし、2人に華があってバランス的にもすごいいいトリオになりました(斎藤)」
 結成したのは2003年。3人全員が主役でありたいと、「ザ・スーパートリオ」の名を冠した。ステージではソロもあり、デュオもあり、もちろんトリオでの演奏に爆笑トークが加わって、クラシックではあまり見かけない極上のエンタテインメントが炸裂する。そして今回初のCD「ザ・スーパートリオ」をリリースするに至ったのである。
 CDに収録されたのは、「カルメン・メドレー」、「《ポーギーとベス》メドレー」、「ウィーン、わが夢の街」、そして「クリスマス・メドレー」など、実に興味深いタイトルが並んでいる。
 「アレンジはすべて斎藤さんなんですが、クラリネットとピアノにはジャージーなテイストが組み込まれていて、でもソプラノはきっちりオペラティックに歌われます(赤坂)」
 「オペラが好きな方はもちろん、普段クラシックを聴かない方、いろんなすべての方に聴いていただきたいユニットですし、アルバムなんです。クラシックを紹介し、またクラシックにたいして敬遠気味の方を、これから取り込んでいきたいと思っているんですね。ゆくゆくは日本や世界の愛唱歌などにも取り組み、とにかくレパートリーは広くしたいと思っています(斎藤)」
 年齢的にもジャンル的にも、すでに幅広いファン層を獲得しているようだ。古きよき時代、サミー・ディヴィスJr.やディーン・マーティンなど、シナトラ一家が繰り広げた、今までのクラシックにはない大人のエンタテインメントを目指している。テーマは「教育ではなく、あくまでも楽しく」。
 その「ザ・スーパートリオ」のコンサートが、12月20日府中の森芸術劇場で開かれる。CD収録曲を含む、まさにおもちゃ箱をひっくり返したような胸躍らせる内容だ。
 「実際に劇場に足をはこんでいただいて、戴冠していただくのが一番です。ひとりでも多くの方と、クラシック音楽をともに楽しむという感覚を共有できればと思っていますし、そのための努力をこれからも続けていきたいと思っています(足立)」



2008年9月号(p.81)特集 日本のピアニスト50人が選ぶ 究極のピアノ名曲50

アンケート@厳選 ピアノ名曲124(独奏曲)の中から、究極のピアノ名曲をお選びください。

ショパン「 ピアノ・ソナタ第3番」  ショパン「 24の練習曲」  ショパン「 24の前奏曲」  ショパン「4つのバラード」 ショパン「マズルカ」 シューマン「ピアノ・ソナタ第1番」 シューマン「謝肉祭」 シューマン「交響的練習曲」 リスト「 ピアノ・ソナタ」 リスト「メフィスト・ワルツ」 ブラームス 「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」 ドビュッシー「ベルガマスク組曲」 ドビュッシー「版画」 ドビュッシー「映像第1集・第2集」 ドビュッシー「練習曲第1巻・第2巻」 ラヴェル「水の戯れ」 ラヴェル「夜のギャスパール」 ラヴェル「クープランの墓」 ムソルグスキー「展覧会の絵」  プロコフィエフ「ピアノソナタ第8番」


アンケートAその中でもとくに思い入れの強い曲について、コメントをお願いいたします。

こうして名曲を目の当たりにすると、どうしてもショパンは外せないという 気持ちでいっぱいになる。勿論バッハが価値があるのはわかっているが、 ポリフォニーじゃ1人で鼻歌もできないし(笑)。私にはモーツァルトやベー トーヴェンは弾くのは好きだが聴くのは嫌だとか、その逆とか、何かしら 注文があったりする。その点ショパンやシューマンは無条件だ。そんな中、 ただ1つをあげるとするならショパンの前奏曲集かなあ。まさにあふれる 才能の産物。その輝きに魅せられて弾き続けると、今度はそこにこめた 深い叙情性や傷つきやすいく人間の心の揺らぎを感じ浸る。楽器の響き、 大作曲家が踏襲したということも大きな存在感だし、誰も超えられない。


アンケートB別表「厳選 ピアノ名曲124(独奏曲)」に載っている以外で、個人的な取っておきの名曲を挙げていただき、その曲に対するコメントをお願いいたします。

スクリャービン・ピアノソナタ第4番・第5番など、今回いただいた名曲集のリストアップを見ると、ピアニスト的には肝心な 曲がずいぶん落ちていて、ちょっと悲しい。個人的にはシューマンの幻想 小曲集やプーランクの小品とかが好きだが、ラフマニノフのピアノソナタの 第2番やスクリャービンの幻想曲、ソナタの3・4・5あたりは落ちてはいけ ないと思ったりする。特にスクリャービン中期の作品群はピアニスティックな 意味でも情感の濃厚さにおいても、ピアノを語るに忘れてはならぬ最高の 作品だと思っている。

2007年9月号(P128)「People」

9人と一組の豪華スターとの競演でデビュー30周年記念コンサートを

 ピアニストとしてのみならず、多彩な分野で活躍する斎藤雅広が、デビュー30周年を迎えた。 「クラシック音楽業界は、やり続けるのが大変ですよね。いいことばかりではないし、いろんな方に助けていただいてここに至ったという感じです。本当に運が良かったと思っています」
 その記念コンサートを10月3日、東京文化会館小ホールで開く。共演メンバーが凄い。赤坂達三( Cl)、足立さつき(S)、林美智子(Ms)、萩原貴子(Fl)、高嶋ちさ子(Vn)、国府弘子(P)、広瀬悦子(P)、三舩優子(PC)、宮本益光(Br)、そしてドビュッシー弦楽四重奏団と、質、量ともに大豪華版。 「仲間とやるコンサートがいいなと思ったんです。アンサンブルが好きということもあるんですが、25周年は一人のリサイタルでした。そうするといつもと同じような普段の活動に紛れちゃうんですね。だから今回は思い出作りという意味も込め、自分の好きなように企画してみたんです。チラシが派手な割に、曲がマニアックなんですよ(笑)」
 言葉通り、ドビュッシー「クラリネットのための狂詩曲第1番」、ガロワ=モンブラン「ディベルティスマン」、フォーレ「ピアノ五重奏曲」、ブーランク《愛の小路》、ラヴェル《ドゥルシネア姫に想いを寄せるドン・キホーテ》などの作品がずらり、もちろん斎藤がソロを含め全曲のピアノを弾く。だが、よく見るとすべてがフランスもの。 「僕はフランスもの大好きなんですよ。普段のコンサートだと、集客という点で難があるのでなかなかできませんから、こんな折はと……。またラヴェルの《序奏とアレグロ》という曲をやるんですけれど、それはハープ、フルート、クラリネットと弦楽四重奏の曲なんです。だからハープをピアノに代えればオリジナル通りに演奏できるんですが、あえてピアノ 2台でやるという(笑)」
 けれどもそのコンサートの余韻に浸っている間はない。前々日には東京ニューシティフィルとラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」を共演、コンサートの次の日にはN響メンバーとガーシュウィン《ラプソディ・イン・ブルー》、またすぐシューベルト「ピアノ三重奏曲」と、実に多忙を極める。年間でのコンサートは 70〜80にも及ぶというが、もとよりテレビに登場するなどクラシック音楽への導入部分を担うことも自認している。
 「初めからトークをしたくてやり始めたわけではありません。そういうことをしたら喜んでいただいた。お客さまが喜んでくださることを、僕はやりたいんです。みんな特徴や役割があります。つまりベートーヴェンのソナタでも、例えば僕は第1楽章だけ弾いて聴いてもらう。それがきっかけとなって、お客さまが今度は全曲演奏をしているピアニストを聴いてくれるのなら、それはそれでいいんじゃないかと。そうすれば業界自体も活性化すると思いますしね」
 だからこそ活動は多岐に渡り、リサイタル、アンサンブル、歌曲の伴奏と、常に自宅ピアノの上には譜面が150〜200曲くらい積み上げられている。さらに最近は指揮台には立つわ、尚美学園で後進の指導にはあたるわと文字通り八面六臂。
 インタヴューは終始笑いに包まれた。この人懐っこいキャラクターも人気の要因に違いない。
 「やり続けることが難しい職業なので、みんなと共存しながらどう生きていけるかが大切だと思うんです。たまたま僕はこれまで楽しくやってこられたし、これからも続けていければと思っています」


2003年1月号(P150)「People」

《展覧会の絵》を中心としたデビュー25周年CDとコンサートは敬愛するホロヴィッツへのオマージュ

ある時はピアニスト、ある時はプロデューサー、そしてある時はNHK教育「トゥトゥアンサンブル」のキーボーズ。「どれが本当の斎藤さん?」。実に様々な顔を持つ。
「今、僕達はクラシックの枠を広げて行かなきゃいけない。気難しい雰囲気を作ってしまったのは演奏家。僕は新奇な活動を通して、この“窮屈さ”をなくしたいんです」

今回、デビュー25周年を記念してCD『展覧会の絵〜ザ・ヴィルトゥオーゾ』をリリースする。
「かつて『芸大のホロヴィッツ』とも呼ばれていた事もあり、『ホロヴィッツヘのオマージュ』を企図してみました。今の若手演奏家たちは、トップに立つキーシンを始め、完成度が高く、ホロヴィッツより技術的には上手い。でも、誰もホロヴィッツの魔力にはかなわないんです。悪魔的な、というか“やりたい放題やる”という思いが足りない。それではつまらないでしょう?“みんなもっと思いっきりやろうよ! いいじゃないの、何言われたって!”そういう気持ちで録音しました。若い演奏家が“何が芸大のホロヴィッツだ! 僕の方がよっぽどうまいよ”と言って、頑張ってくれれば本望。クレイジーなものがあってもいいじゃないの。皆さん、思いっきりやりましょう!」

熱い思い入れたっぷりのCDだ。
「リストの《ラ・カンパネラ》はヴィルトゥオーゾっぽいものに徹してみました。史上最速を競うような感じでやってみてもいいんじゃないかと。《展覧会の絵》はホロヴィッツが得意としたレパートリー。“ホロヴィッツが大好き!”という思いをぶつけました。それからスクリャービンの《練習曲》とワーグナーの《イゾルデの愛の死》。全体で、45、46分ですが、聴くと結構ヘヴィな感じ」
《展覧会の絵》は内声、旋律の歌い方などに斎藤雅広独特の色が出ていて、何とも絶妙な響き。また、絵の中の物が止まっていない。まるで動画を観るようだ。
「僕の生徒にも“先生は、ムソルグスキーが絵に対して感じた印象を演奏したんじゃなくて、動物の気持ちで弾いてますね”と言われました(笑)。昔の巨匠たちがやっていたような、良くも悪くもアクの強い世界を気兼ねする事なく音にしてみたんです。好き嫌いは分かれると思いますが、好き嫌いはあって当然」

12月22日には紀尾井ホールでデビュー25周年記念リサイタルを開く。
「普通の人達が普通の理由で来てくれるコンサートを目指したい。そうでなければ本当に楽しい音楽はできません。キーポーズもやってしまった事だし、“みんな、楽しくやろうよ”という気持ち。クリスマス・シーズンに“何か楽しい事が起こりそうだな”と期待して下さるお客様を狙っています」

先日、筆者は息子に、キーボーズはかつて「芸大のホロヴィッツ」と呼ばれていた斎藤雅広である事を話した。すると息子は一言、「ホロヴィッツ? キーボーズの方が有名だよ」。
キーポーズの思い出は、全国の子供の心にしっかりと刻み込まれている。


2001年2月号(P226)〜ピアノ講座の課題曲をCD化、『マイ・ロマンス』をリリース


NHK教育テレビ「トゥトゥアンサンブル」のメインキャラクター・キーボーズ、最近では「趣味悠々」の講師を務め、今や子供にも大人にも人気沸騰の斎藤雅広。その彼が、ピアノ講座の課題曲をCD化して欲しい、という声に応えてリリースしたのが『マイ・ロマンス』だ(日本コロムビアより)。しかも「大人のための」という副題付き。ショパンやドビュッシーに混ざって映画音楽も覗く。
「ぼくはジャズやスタンダードもとても好きで、多少ポピュラーが入っている方がいいと思って、『ラ・ラ・ルー』なども選びました。それらは楽譜なしで即興で録ったんでよ。『マイ・ロマンス』は友達が好きなので入れたのですが、しっとり系が集まり、うまくロマンスでくくれました」
だがそのロマンスの語感に騙されてはいけない。いくらコンピものだとは言え、本人も言うように結構辛口なロマンスだ。
「甘いことは言わないぜ、みたいな感じ(笑)。優しく慰めてあげる曲ではなく、今までのヒーリング系に癒されることのなかった心の傷に触れるCDにしたかった。『手の上の心臓』などのプーランクも、絶対入れたいと思いました。クラシックは堅くないというのはウソで、難しいからこそいい。堅くないと言って、内容のないものを弾くというのは違うと思っていますから」
難しいクラシックを、観客が分るわけがないからレヴェルを下げる、というのは勘違い。演奏家の務めは、難しいけれど何かを伝えている、と思わせることだという。内容は難しくても、演奏はエンターテインメントに、というのも持論なのだという。
「ぼくのステージをラスベガスで見たディーン・マーチンやサミー・デービスJrのショーみたいだと言われて、本当に嬉しかったんです。ジャンルは違うけれど、彼らって本当に歌がうまくて本物。内容を落とさずにエンターテインメントしている。ぼくもそうありたいですね」
一見「三の線」で面白おかしい斎藤だが、それは豊かで確かな演奏に裏打ちされたもの。それは今回のCDからも聴き取れる。「ニの線」の斎藤だ。《取材・文:山口眞子さん》


2000年11月号〜ユニークなピアニストのまっとうな願いとは〜

18歳で日本音楽コンクール1位、最近ではソロ・コンサートは勿論、ある時はヨセフ・スークやアライサ、イロナ・トコディ、足立さつき、シャーロット・ロスチャイルド、戸田弥生などの共演者として演奏会やCDに加わり、ある時はNHK教育TV「トゥトゥアンサンブル」のメイン・キャラクター<キーボーズ>、また「趣味悠々」の講師役として画面に登場と、幅広い活躍を続けている斎藤雅広さんに、その考え方を伺ってみた。

<普通の人にまでクラシックを届けたい>
僕はクラシックが現在、力を持っていると思えないんです。たまたま自分のキャラクターの中に役者的なものもあって、それを出してゆくことで音楽を少しでも一般の人に広げることができるなら、僕にとっても、クラシックの普及の上でもプラスになるんじゃないかと考えているんです。ベートーヴェンのソナタ全曲演奏会に挑戦するのも素晴らしいことだけど、僕の場合は、ポピュラーの好きな人たちが気楽に聴ける、しかも質の高いコンサートを目指していたら、たまたまテレビなどの世界にも縁ができて、こんな形になってきたというところです。

ソロもあるけれど共演として指名されることもあり、すばらしい共演者と一緒により楽しいコンサートを作ってゆこうと考えてきたことが、現在の自分のキャラクターを作ってきたのかもしれませんね。みんなが家庭で楽しめたり、デートのために来ることができるコンサートを作りたいです。

<日本歌曲の新しい形>
今まで参加してきたアルバムは20枚ほどになります。その中で、シャーロット・ロスチャイルドさんの「日本の旅路」(音楽之友社)には、特別な思いがあります。それまで彼女は、シャーロット家の方針として、「歌の翼に」など自分たちに捧げられた曲を中心にしたコンサートを続けてきたんです。日本国内でやる場合は、サービスとして日本歌曲を歌ってくれたんですけど。何回か共演してみて、格調は高いけど堅苦しいような気がして、サービスの日本歌曲が素晴らしかったものですから、日本歌曲だけでアルバムにしてみましょうって提案したんです。実に熱心にやられたシャーロットさんの努力のおかげで、結果は大成功でしたね。この9月にも次の日本歌曲のアルバムをイギリスで録音してきました。日本人の中では古い世代と新しい世代で、日本歌曲の歌い方、感じ方が全く違うんですけど、その両者ともまた違う、純粋に音楽的な日本歌曲ができたと思いました。

<大好きなフォーレのアルバムを11月に発売>
11月にはザルツブルグ・モーツァルテウム四重奏団と一緒に、フォーレのピアノ四重奏曲(第1番Op.15 )と五重奏曲(第1番Op.89)のCDを音楽之友社から発売の予定です。フォーレのこの曲は、以前から大好きな曲で、五重奏は耳が聞こえなくなってから書いているんですが、音楽に寄せる悲痛な思いが伝わってくる名曲です。四重奏も、ピアノを加えた室内楽曲で1、2を争う名曲だと思います。6月に録音したのですが、メンバーも持てる力を100%出してくれましたし、最高のアルバムになったと思います。

9月に出た戸田弥生さんのアルバム(音楽之友社)にも参加させていただいています。エネスコ、シチェドリンという曲は、ピアノにとっても難曲で、合わせる前は悩んでいたのですが、やってみたら10年来の親友のように意気投合した音楽になったと思います、戸田さんの情熱が伝わってくる、「熱い音楽」です。

12月にはコロムビアから、ピアノソロが発売されます。「月の光」から「ラ・ラ・ルー」まで、夜、グラスを傾けながら聴いてほしい大人のアルバムです。今、年間140回のコンサートをしています。大変といえば大変で、睡眠時間を削る毎日ですが、若いころからこういう生活にあこがれた自分が、活動を続けてゆくことが出来る喜びに比べれば、苦労もふき飛んでしまいます。クラシック音楽を広げるために、これだけ仕事が頂けて、本望です。神に感謝して、一日一日の演奏を大切にしてゆきたいと思います。

今年のクリスマスの12月24日は、ヤマハ銀座店をジャックして、オールスターの共演者達と一日中イベントをします。ぜひ遊びにいらして下さい。


1999年4月号(P105〜107)「音クリエイター」

(“キーボーズというキャラクターはあるいは一般の方にはあまり馴染みが無いかも知れない。しかし、僕の息子を初め、子供たちへの知名度は抜群。NHK教育テレビの「トゥトゥアンサンブル」に登場する不思議なピアノマンだ。”・・・にはじまる片桐卓也さんの文章に斎藤雅広本人も大満足。読みどころをちょっとつまんでみましょ。全文及び写真はバックナンバーをお求めのうえご覧下さい。)

【VPOでも話題の「キーボーズ」】
(略)
★スタジオだけでなく、コンサートホールで収録したライヴも、演奏のメンバーが豪華で驚きました。(略)子供たちが構えないで聴くことができますね。幼少の頃、当時人気だった「忍者部隊月光」になりきって。本人曰く、子供の頃からコスチュームプレイが好きだった。
斎藤:子供たちが最初から受け入れ体勢で聴いてくれますからね。「昔、そう言えばキーボーズというのがいて、室内楽を聴いたことがあるな」ぐらいに思ってくれれば良いなと思っています。音楽に関わっている人なら、ベートーヴェンのカルテットを聴きにいくことはあるでしょうけれど、まったく関心のない人にいきなりそれを聴けと言っても無理でしょう。でも昔にちょっとでもそういう音楽に触れた体験があれば、少しは関心を持ってくれるんじゃないかな、とりあえず行ってみようと思ってくれるんじゃないかなと。そうい受け入れ口になればいいなと思ってやっているんです。
★テレビの番組が終っても、じゃあどこかでキーボーズには会えるんですね。
斎藤:この4月からは全国各地でキーボーズ・コンサートを開こうと、計画中です。この間、ウィーン・フィルのクラリネットのシュミードルが、そのコンサートに出てくれました。彼は番組を見て「出たい」と言ってくれて。ウィーン・フィルには何人か知りあいがいるんですが、彼らの間で「サイトウの番組、見たか」みたいな会話がなされているらしいんです。ウィーンにもやはり同じような番組を作ってる人がひとりいて、その人はウィーンでとても尊敬されているんですって。シュミードルは「空いていたら、またいつでもやるから」と変なTシャツ着て、尻尾付けて演奏してくれましたよ。
【クラシックは落語みたいなもの】
★キーボーズを離れた斎藤さん自身の演奏活動も多いですよね。
斎藤:僕は室内楽が好きなんですよ。色々な人と室内楽をやりたいというのが希望ですね。ソロとして弾きたい曲もありますし、CDを作っていきたいという気持ちもあるんですが、逆に自分の得意なものは限られているんじゃないか、という考えもあるんです。例えばベートーヴェンのソナタ全曲を弾くということが最近割と流行っていますね。でも、誰が言ったか忘れたけれど、32曲全部好きなわけがない、自分に合っているはずがないと。そう考えるのは正しいんじゃないかと思います。32曲を全部勉強するのは正しいけれど、全部自分で弾くことはない。その中から自分の好きな曲、得意な曲を選んで弾けばいいと思います。
★なるほど、一理ありますね。
斎藤:ベートーヴェンを弾く時、毎回同じものでもいいんじゃないか、例えばフランク・シナトラが必ず「マイ・ウェイ」を歌うように、それが良いものだったら、それを弾き続けてもいいんじゃないかと思いますね。
★それじゃあ、これだけは自分が好きで一生弾いていきたいという作品はありますか。
斎藤:ありますよ、たくさん。あまりにも有名な作品だけれど、ショパンのソナタとかスケルツォとか。ショパン、シューマン、リストは好きだから、一生弾いてゆくでしょう。奥も深いし、また毎回違って弾けるところもありますよね。よく言うんですけれど、クラシックは落語みたいなものだと。「寿限無、寿限無」は誰がやっても同じ部分はあるけれど、でもちょっとした話し方、ニュアンスの違いで、また話す人のその時の調子でも違いますよね。そういう細かい差を楽しめるものだと僕は思います。
★トコディさんとの録音も含めて、室内楽のCDは出されていますが、ご自分のソロの録音は考えていらっしゃいますか。
斎藤:コンセプトとしては、ショパン・アルバムとかシューマン・アルバムでもいいんですけれど、ひとつの気分で、例えば〈メランコリー〉とか。プーランクに「メランコリー」という作品があって好きなんですが、その作品を中心にして、メランコリックな曲をいれてみるとか。あとは、ピアニストに捧ぐCDを作ってみたいですね。ルービンシュタインの得意なレパートリーを全部弾く『ハロー・アルトゥール!』とか、ホロヴィッツに捧げる『ヘーイ、ウラディミール!!』とか。
(略)
★個性的な演奏家は少ないですよね。
斎藤:舞台での演奏はその場限りがいいと思うんです。だからお客さんにはCDと同じものを求めてコンサートに来てほしくないなとは思いますね。昔のデル・モナコみたいに、倒れるくらい高音を出してくれた方がいいですよ。そのために他の曲が歌えなくなったとしても、その1曲が聴けたから良かったと思えるような演奏会。すべてをコントロールして全部が均等の演奏だったとしても、それはつまらないと僕は思います。

(ここには今まで明かされていなかった情報をちりばめて新たにプロフィールが書かれていたので、その中から本人談の部分を・・・)
●父親は藤原歌劇団に所属する歌手で、子供の頃からオペラを聴くのが好きだった。「父はリゴレットやヤマドリなんかが得意だったようで、立川澄人さん、友竹正則さんとブッファ3羽烏と業界では言われていたらしいです」。
●ハリーナ・チェルニー・ステファンスカに才能を認められ、その招きでポーランドのクラコフに留学。「ちょうどコンクール後、バーッと登ったあと、ちょっと落ちていた頃で、この先どうしようかと思っている時に、たまたまステファンスカ先生に会いまして、それで留学してみようかと。当時はまだ共産国ですから情報もあまりなかったわけですが、先生のところには音楽が一杯あって、いいなあ、音楽ってやっぱりいいなと思いました。リフレッシュさせてもらったという感じですね。ステファンスカ先生はいつもこんなことを言っていました。ピアノを弾く人には4種類いる。コンクールを受けるために頑張っているのは学生、職業のためにピアノを弾くのはピアニスト、ベートーヴェンをどう弾くか研究しているのは音楽家。そして芸術家は、みずから創造し、それを人に与える。マサヒロ、お前は芸術家にならなければならない、と」。


1998年3月号(P135)「人アト・ランダム」

【斎藤雅広(ピアノ)TVのキャラクターで人気。昨年暮にはCDをリリース】
97年4月から始まったNHK教育テレビ「トゥトゥアンサンブル」で、“キーボーズ”として出演、その衣装といい強烈な個性で子供たちの人気者になってしまった斎藤雅広は、東京芸術大学出身、18歳の時第46回日本音楽コンクール第1位等の経歴をもつピアニスト。昨年11月にライヴ・ノーツより待望のCDが発売された。収録曲はヤナーチェク弦楽四重奏団とのドヴォルザーク/ピアノ五重奏曲Op.81、ザルツブルグ八重奏団のメンバーとのシューベルト/ピアノ五重奏曲「ます」。斎藤自身大好きだという“室内楽”の楽しさ、醍醐味が伝わる出来となっている。
「今年はデビュー20周年。NHK教育TVの番組が御好評をいただき今年も続けられることになりました。コンサートとしては国内のアーティストとアンサンブルや伴奏の他、ヤマハのファミリーコンサート、番組に因んだ“キーボーズコンサート”、軽部真一アナとの“おしゃべりコンサート”などをやる予定。ミスター・ビーンばりの冗談音楽コンサートも企画中です」とのこと。作・編曲家としても活躍。「難しいクラシックをリラックスして」聴かせ、自らもピアニスト人生をエンジョイしている。今注目の演奏家だ。