196号/2008年1月号 MUSIC TOPICSより
豪華スター競演によるフランス音楽の夕べ
斎藤雅広氏デビュー三〇周年記念コンサート開催
十月三日、東京文化会館小ホールを会場に、斎藤雅広氏デビュー三〇周年記念コンサート〈豪華スター競演によるフランス音楽の夕べ〉が盛大に開催されました。クラシックのピアニストながら、ジャズやムードミュージックのCDをリリースしたり、多方面のアーティストとの共演の多い斎藤氏だけに、この夜を祝おうと駆けつけたゲストはまさに多士済々。「自宅で普段着でコンサートを楽しんでいるリラックスした雰囲気で」との斎藤さんの言葉通り、ゲストとのエスプリの効いたトークに、客席が笑いの渦に包まれるシーンもあるなど、気さくで豪華絢爛なステージが展開されました。
第一部では、クラリネット界の貴公子・赤坂達三氏をトップバッターに、ソプラノの足立さつきさん、フルートの萩原貴子さんが、斎藤氏のピアノと次々に共演。斎藤氏がいつも自宅で弾いているお気に入りの曲というフォーレの〈舟歌第八番〉をはさんで、最後はフランスから参加のドビュッシー弦楽四重奏団との共演による〈ピアノ五重奏曲第二番〉で重厚に幕を閉じました。
そして第二部は冒頭にジャズピアノ界のスーパーレディ国府弘子さんが登場。二台ピアノにより斎藤氏とシャンソンの名曲〈枯葉〉を見事なインプロヴィゼーションで共演し、会場の熱気は最高潮に。さらに、クラシックのジャンルにこだわらない活躍で人気沸騰のヴァイオリニスト高嶋ちさ子さん、我が国のオペラ界を代表するメゾソプラノの林美智子さんとバリトンの宮本益光氏と、ゴージャスなゲストが普段には滅多に聴けないスペシャリストなフランス曲を次々と披露。さらに、今や我が国の中堅・若手ピアノ界をそれぞれ代表する存在となった三舩優子さん、広瀬悦子さんが相次いで登場すると、会場は大輪の花が咲いたような華やかさに。二台ピアノで三舩さんはラヴェル〈序奏とアレグロ〉を、また広瀬さんは同〈ラ・ヴァルス〉を斎藤氏と熱演し、迫力ある演奏に聴衆は惜しみない拍手で応えました。
アンコール曲は斎藤氏のコンサートではおなじみのファリャ〈火祭りの踊り〉。三時間に及んだ記念すべきステージを振り返って、斎藤氏は「沢山のゲストの方々とお客様に支えられて、今夜は一生忘れられない演奏会になりました。二台のヤマハCFVSは本当に素晴らしいピアノで、輝かしい音色をホールいっぱいに豊かに響きわたらせてくれました」と、熱気さめやらぬ会場で語ってくださいました。
191号/2007年3月号 PIANISTALKより
ピアニストという職業につけて心からの幸せを感じています
多くの方々の支えがあって迎えることができた30周年
・・・・デビュー30周年を迎えた斎藤さん。この30年間を振り返りつつ、今のお気持ちをお聞かせください。
◆日本のクラシック界というのは、やり続けることが何よりも難しいところだと思うんです。この30年を考えても、必ずしも成功話ばかりではなく、駄目だと思ったこともたくさんあります。ですから僕自身、非常に運が良かったと思いますし、いろいろな方々に支えられてきたからこそ、ここまで来られたという想いが一番大きいので、感謝の気持ちでいっぱいです。それに、夢を果たすのが難しい業界ですから、小さいときにピアニストになりたいと思い、曲がりなりにもこうしてピアニストという職業につけたことを、心から幸せだと感じています。
・・・・デビュー当時から、枠にとらわれない活動をしていこうと思われていたのですか?
◆いえ、そうではないんです。僕自身、色々な挫折を経験して、「ピアノの先生になろうかな」とか「どこかの大学に就職しようかな」と思ったときもありました。でもそれが実現できなかったので、演奏活動をせざるを得なかった(笑)。それで、ソロだけではなくアンサンブルもして、クラシック音楽は難しいと思われていましたから、「お話を交えながら楽しくやるほうがいいので、そういうコンサートはできないか」といった世の中のニーズにも応えていったら、現在の形になったのです。
というのも、僕自身、理想というものがないんです。割と享楽的な性格なので(笑)、音楽界を改革してやろうとか、そういった望みはまるでなく、ただピアノを弾いて、毎日が楽しく暮らせればいい。もちろん、ミケランジェリのように自分のピアノを持ち歩いて、最高の状態で弾ければ最高とは思いますよ。でも、「状態は悪いですが、みなさんが待っているので弾いてもらえませんか」と言われると、「ベストは出ないかもしれませんが、やってみましょうか」となる。僕のやれることは限られていますが、それでも皆さんが喜んでくださるなら、何でもやらせていただこうじゃないか、と。
・・・・では、NHKの教育テレビ番組「トゥトゥアンサンブル」のユニークなメインキャラクター“キーボーズ”は、どのようにして生まれたのですか?
◆元々「笛はうたう」と「ゆかいなコンサート」という子ども向けの番組がありました。そして、それをまとめた形で新しい番組を作りたいと依頼されたとき、いくつか出した企画のひとつだったんです。“キーボーズ”のネーミングは僕ですが、あの格好はNHKの衣装部の人が考えました。ただ「キーボーズ」だから「お坊さん」のように鍵盤をデザインした袈裟が着たいと言いました(笑)
とにかく僕はのんびりしているし怠け者だから、頼まれなければ何もしないんです。ただ、30周年を迎えられたのは、自分だけの力ではないので、「皆さんのおかげで30年やってこれました」というお知らせをするのは必要だと思い、10月3日、東京・文化会館小ホールで記念の演奏会を開くことにしたんです。
色々な方をゲストに招いてお祭りのようなコンサートに
・・・・どのような演奏会にしたいと考えていらっしゃいますか?
◆親しいすばらしい演奏家をゲストに招いて、楽しいコンサートにしようと思っています。今のところ偶然にも美女とイケメンばかりで(笑)。ソプラノの足立さつきさん、メゾ・ソプラノの林美智子さん、ピアノの三舩優子さん、クラリネットの赤坂達三さん、フランスからドビュッシー弦楽四重奏団、あと、2,3人に声をかけています。お祭りのようにしたいと考えてはいますが、全くまとまりがないと困るので、一応フランスものでまとめてみようかなと。そして、ソロあり、2台ピアノあり、歌あり・・・・で、6時半開演の長時間にわたるコンサートにしようと思っています。でもあまり長いと、みんな帰っちゃうからね、ワハハハハ!
・・・・足立さん、赤坂さんとの“スーパー・トリオ”もそうですし、昨年は6人のピアニストによる『クラシックvsジャズピアノ決戦』の企画・出演など、様々なスタイルでの活動にも力を注がれていらっしゃいますね?
◆色々は人たちとワイワイやるコンサートはこれからも実現させていきたいですね。たとえば3人なら“1÷3”ではなく“×3”というように、全員が主役で、全員が目立ってほしいので、共演される方も気楽に出演してもらえればと思っています。お互いにリラックスしていて、お互いに楽しんで、なおかつお客様も楽しい・・・・。そういうエンタテインメントが好きですし、それが僕のコンセプトでもあります。
・・・・斎藤さんは、ヤマハ主催のコンサートにも数多く出演されています。様々なステージで演奏されているヤマハピアノについての感想をお聞かせください。
◆音色が美しいし、日本の風土にも合っていると思います。メンテナンスも非常にしっかりしているので、総合的に見ても申し分のないピアノですね。ステージにヤマハのピアノがあると安心で、しかも自分の思ったことをよく表現できるので、頼もしく素晴らしい楽器だと感じています。
音楽と関わりながら楽しくいきていきたい
・・・・演奏活動だけでなく、後進の指導にも力を注がれています。若い方たちに望むことは?
◆彼らは、僕たちが口を挟むことなどないくらいに、みんな上手すぎるよ(笑)。でも、僕たちのように、長く何年もやっているとダメージを受けたり、中傷にさらされたりして、才能ある人でも挫折してしまうことがあります。僕はそのような人たちをたくさん見てきましたし、僕自身もそういったことから首の皮一枚で繋がってきたので、若い人たちがもしそういう状況に陥ったら、おじさんとしは(笑)できる限りの力を貸してあげたいと思っています。皆さん、それぞれ個性があって素晴らしいので、遠慮しないでがんがん個性を伸ばして、どんどん活動してほしいですね。
・・・・最後に、今後の抱負について、お聞かせください。
◆抱負はないので(笑)、引き続き、音楽に関わりながら楽しく生きていきたいと思っています。僕たち演奏家は、目標を決めてやったとしても何も残らないんです。たとえ、やる気を持ってリサイタルを開いても、良かったと反応してくれるのは次の日まで。それ以降は、皆さん普通の生活に戻ってしまうので、自分だけが興奮していてもはじまらない(笑)。ですから、淡々と今日よりは明日を、より充実させていければいいですね。そうして、たとえば40周年を迎えることができれば、僕の人生は幸せだと思いますし、仮に迎えることができなくても悔いはありません。皆さんによって生かされているわけですから、今は30年もやらせていただいたことに対する感謝の気持ちのほうが大きく、少しでもそれにお応えできるようにがんばるのみです。
186号/2006年5月号 MUSIC TOPICSより
楽しいトーク交え会場沸かせたエネルギッシュな熱演〜斎藤雅広氏迎え高崎でヤマハピアノコンサート
1月19日、我が国を代表するヴィルトゥオーゾとして活躍する一方、NHK教育テレビ「趣味悠々」の講師としてもおなじみの斎藤雅広氏を迎え、群馬県・高崎市文化会館でヤマハピアノコンサートが開催されました。
「今年がいい年になるよう、魔除けの意味を込めて」選んだという1曲目のファリャの《火祭りの踊り》から、家族連れの姿が目立つ客席は、ユーモアたっぷりの斎藤さんのトークとダイナミックな演奏に、たちまち引き込まれていきます。特にムソルグスキーの《展覧会の絵》を1曲ずつ解説しながらの演奏には、小さな子どもたちまでもが興味深く聴き入りました。そして、リストの《ハンガリア狂詩曲第11番》、ラフマニノフの《音の絵》など、明るく元気な曲で大いに盛り上がった後、休憩をはさんだ後半はシューマンの《子供の情景》から「知らない国々」「トロイメライ」、ドビュッシーの《ベルガマスク組曲》から「月の光」と、一転して静かな曲をじっくりと聴かせた斎藤さん。《英雄ポロネーズ》《夜想曲嬰ハ短調・遺作》をはじめとするショパンの名曲5曲で、プログラムの終盤を感動的に締めくくりました。大きな拍手に促されてのアンコールはセラヴィックの小品。寒さを吹き飛ばすようなエネルギッシュな演奏の連続に、会場を埋めた聴衆は最後まで酔いしれました。
そのコンサートを振り返り、斎藤さんは「今日は子どもたちが、ショパンの《ノクターン》など静かな曲も集中して聴いてくれました。ヤマハピアノの美しい音色に、きっと伝わるものがあったのでしょう」と、New
CFVSに惜しみない賛辞を寄せました。
185号/2006年3月号 MUSIC TOPICSより
SEPプロモデルXP特注で一人二重奏〜ヤマハ銀座店ウィンターフェア・クリスマススペシャル
12月23日の午後、潟с}ハミュージック東京銀座店1階のミュージックステージで、我が国を代表するヴィルトゥオーゾとして高い評価を受ける一方、NHK教育テレビ「趣味悠々」の講師としてもおなじみの斎藤雅広氏によるインストアイベント<ヤマハ銀座店ウィンターフェア・クリスマススペシャル>が開催されました。
サンタの帽子をかぶって颯爽と登場した斎藤氏は、サイレントアンサンブルピアノ・プロフェッショナルモデルXP特注付のヤマハグランドピアノにより、まずファリャの《火祭りの踊り》、ショパンの《ノクターン第2番》の2曲を披露。さらに「サイレントアンサンブルピアノなら、こんなこともできるんですよ!」と、チャイコフスキーの《ピアノ協奏曲第1番》の冒頭を、XP特注のアンサンブル音源をバックに演奏して、大喝采を浴びました。
ここで、サンタクロース姿の助手が登場して、XP特注に家庭用ビデオカメラを接続。「何が起きるのだろう?」と聴衆が固唾を呑んで見守る中、斎藤氏はXP特注によりクリスマスナンバーを次々とメドレーで演奏していきます。そして、その演奏をXP特注ならではの自動演奏と、それと同期した映像により再生。タッチの強弱やペダリングが鍵盤やペダルの動きとともに高精度で再現されるだけでなく、映像でも確認できることに感嘆の声があがりました。「この映像同期機能を活用すれば、演奏する姿勢などもチェックできるので、いっそう効果的なピアノレッスンが実現しますね」というトークに、一同納得。そしてクライマックスは、斎藤氏自身が先ほど録音したクリスマス・メドレーのXP特注による自動演奏に合わせて、クラビノーバで見事な一人二重奏を聴かせ、会場はいっそう大きな拍手に包まれました。
終演後、斎藤氏は「一人でいろいろなことができるサイレントアンサンブルピアノは、演奏していてとても楽しい。映像同期機能も付いたXP特注は、コンピューター時代の気軽で効果的なレッスンに最適だと思います」と笑顔で語りました。
168号/2003年5月号 スパイス・オブ・ミュージックO〜鎌倉古寺に流れるクラシックの調べ〜
尼寺の本堂で斎藤雅広氏のピアノリサイタル
記念すべき第一回の英勝寺(本堂)でのコンサートには、ピアニストの斎藤雅広さんに出演をお願いしました。斎藤さんとは、ホームコンサートをしていた頃から親しくお付き合いさせていただいており、ミューズの森主催の
コンサートにも度々ご出演いただいています。飾らない暖かい人柄、巧みな話術、幅広いレパートリーの華麗な演奏は、いつも聴衆を魅了し、鎌倉には多くのファンがいます。英勝寺のご住職様が、ピアノがお好きということも
あり、第一回は、斎藤さんのピアノのコンサートと決まりました。
英勝寺は、江戸初期に創建された鎌倉唯一の尼寺で、会場となった本堂の仏殿には徳川三代将軍家光から寄進された阿弥陀三尊が安置され、普段は開放されていないため、珍しさもあって、チケットは一ヵ月前に完売となりました。コンサート当日の秋分の日、九月二十三日は、花の寺として知られる英勝寺のお庭に彼岸花が鮮やかに咲き、素敵な演出効果を生み出していました。美しい四季の移り変わりを肌で感じながら、日本の伝統文化が受け継がれている場所でクラシックの調べを聴くという、私の長年の夢が実現したのです。会場が狭いため、午後一時と三時の二回公演とし、コンサートの前に祠堂でお客様に抹茶と和菓子のサービスをして、ゆったりとした気分を味わっていただくようにしました。午後一時の開演に間に合うよう、ピアノの搬入は朝八時。長年お世話になっている(株)ヤマハミュージック横浜のご協力で、創建当初そのままの建物の仏殿へのピアノの搬入という神経を使う作業が無事完了しましたが、石畳の床の上にピアノを安定して置くことが難しく、初めての経験で戸惑いました。さらに困難を極めたのが、ピアノの調律で、技術者の方には、大変なご苦労をかけました。鎌倉はもともと湿度が高い場所なのですが、あいにくこの日は朝から小雨が降り続き、調律しても音程がすぐに下がり、タッチが重くなってしまうという最悪の状況。床が石畳の会場の音響も悪く、湿度に悩まされながらピアニストと技術者の力量が問われるコンサートとなりました。限られた時間の中で、最善を尽くしてピアノの調律をしてくださった技術者の方、どんなに悪い条件の中でも、心をこめて素晴らしい演奏をしてくださった斎藤さんの姿勢には、強く心をうたれました。
会場となった英勝寺本堂の天井には、天女が琴や笛を奏でている絵が描かれており、「音楽と縁の深いこの仏殿でピアノの演奏が聴けることを嬉しく思います。浄土宗の阿弥陀経の中にある極楽浄土を思い浮かべながら、優しい幸せな気持ちになっていただきたい」というご住職様のお話に続いて始まった斎藤さんのコンサートの最初の曲は、ファリャの「火祭りの踊り」。力強く華やかな演奏は、会場を不思議な世界に誘い、ユーモア溢れるトークをはさみながらショパンやリストの作品が次々と披露され、アンコールのショパン《ノクターンOp.9−2》では、深い感動が会場全体を包みました。いらしてくださったお客様からは、「演奏者と聴き手に一体感があって良かった」「仏像に囲まれて、安らかな気持ちで心地よく音楽を聴くことができた」「お寺でクラシックというミスマッチに興味を持って来たが、想像以上に素晴らしいコンサートだった」などの声が聞かれ、斎藤さんも、「手づくりのぬくもりを感じながら演奏できて、楽しかった。新しい試みとして、このようなコンサートも面白い」と言ってくださいました。翌日の朝日新聞に掲載されたコンサートの記事は、インターネットに乗って世界中に配信され、大
きな反響を呼んで、第二回以降のコンサートのチケットも、すべて完売という結果を出しています。 (「ミューズの森」代表/深浦由紀子)
167号/2003年3月号 MUSIC TOPICS より
斎藤雅広氏がデビュー25周年記念のリサイタルとともにCDも発売
12月22日、東京・紀尾井ホールで斎藤雅広氏のデビュー25周年を記念するリサイタルがMASAHIRO
CLUBの主催により開催されました。
この日、斎藤氏はクリスマスシーズンにちなんで、ゴールドに輝くサンタのマントで登場。コンサートは映画「カーネギーホール」でルービンシュタイン氏が弾くのを見て、斎藤氏がピアニストになろうと決心したというファリャ《火祭りの踊り》で華麗に開幕しました。二曲目には、氏の尊敬してやまない巨匠ホロヴィッツ氏の名演でも知られるムソルグスキーの組曲《展覧会の絵》を、曲目ごとに解説のトークをはさみながら披露。渾身の力をこめて“ピアノを鳴らし切り”“難曲を弾き切る”ことに徹底してこだわった演奏と、分かりやすく聴衆に語りかけるユニークな演出で、ステージはいやが上にも盛り上がりました。さらにショパン、プーランク、バルトーク、ドビュッシーの名曲を、完璧なテクニックと表現力で次々と演奏。フィナーレは「ピアノという楽器の枠を超える」とも評されるシューマンの大曲《交響的練習曲》で豪快に締めくくりました。
この記念すべきコンサートのパートナーとして、豊かなスケールと色彩感に溢れた氏の演奏を支えたのはヤマハコンサートグランドピアノNew
CFVS。終演後、斎藤氏は「ハードなプログラムでしたが、ヤマハピアノはとても良い音で、演奏者の期待に十分応えてくれました」と高く評価しました。
なお、デビュー25周年を記念して発売されたCD『展覧会の絵〜ザ・ヴィルトゥオーゾ』でも、ヤマハNew
CFVSによる斎藤氏の演奏を聴くことができます。
153号/2000年11月号 MUSIC TOPICS より
〜三大ピアニストの“物真似”付きでバッハを弾き分け、斎藤雅広氏のステージは驚きと楽しさでいっぱい〜
真っ赤なシャツと黒のベストに身を包み、ピアニストがマンボのリズムに乗って踊りながら登場! そんな型破りのステージが展開されたのは、8月26日、愛知県安城市文化センターで斎藤雅広氏によって行われた「クラシックピアノコンサートの楽しみ方お教えします」コンサートです。
第一部では、軽妙なトークをはさみながらも、ショパンの《ノクターン》やリストの《メフィストワルツ》等を華麗なテクニックで、次々と披露。円熟した境地を、遺憾なく発揮されました。その斎藤氏が休憩をはさんだ第二部では、メキシカンスタイルの衣装で、あっと驚く大変身。バッハの《平均律》をフィッシャー、グールド、リヒテルの“物真似”付きで、三者三様に弾き分けて見せるなど、夏休み中の子どもたちも多い聴衆を大いに沸かせました。そして「ピアニストは100人いれば100様の個性があります。それを楽しむのがピアノコンサートの醍醐味」と語りかけると、会場は拍手とともに大きな感動に包まれました。
152号/2000年9月号 MUSIC TOPICS より
〜斎藤雅広氏、春日部市でセンテニアルコンサートに出演、聴衆を魅了した親しみやすいステージ〜
梅雨明け間近の7月16日、埼玉県春日部市の市民文化会館大ホールで行われたセンテニアルコンサートには、NHK教育テレビ「トゥトゥアンサンブル」などでおなじみの斎藤雅広氏が登場。
ファリャ《火祭りの踊り》で始まった第一部では、ショパン、リストなどの誰でも知っている名曲を次々と演奏。楽しい解説を加えながらの斎藤さんの熱演に、親子連れのファンの目立つ会場は、一曲ごとに熱い盛り上がりを見せました。そして第二部では発表会の定番、ブルグミュラーやケーラーなどの曲をはさんで、ドビュッシー、シューマン、スクリャービン、シュトラウスなど、大人にはおなじみの、また子供には憧れの曲をたっぷりと聴かせました。ドビュッシー《亜麻色の髪の乙女》では、乙女の年齢設定を変えて三通りに弾き分けてみせるなど、まさにサービス満点のステージでした。
150号/2000年5月号 MUSIC TOPICS より
〜〈ゆかいな春の祭典〜斎藤雅広と7人の仲間たち〉開催*アンサンブルでクラシックの楽しさをアピール〜
春休み最初の日曜日となった3月26日、有楽町駅前に威容を見せる東京国際フォーラム(ホールC)にて、『ゆかいな春の祭典〜斎藤雅広と7人の仲間たち』が開催されました。
NHK教育テレビの『トゥトゥアンサンブル』キーボーズ役を彷彿とさせる華麗な衣装で登場した斎藤さんのファリャ《火祭りの踊り》で幕を開けたステージは、第1部にヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスという弦楽器の仲間たち、第2部にフルート、クラリネットという管楽器の仲間たちと声楽(ソプラノ)が登場。
司会の三井ゆりさんと斎藤さん、そして日本を代表する各楽器のソリストたちとのおしゃべりのなかでそれぞれの音色の特徴などを紹介しながら、アンサンブルのさまざまな形態を盛り込んだプログラムが演奏されました。
なかでも会場をわかせたのは、NHK教育テレビ『趣味悠々〜お父さんのためのピアノ講座』に参加した大木和宣さんを生徒役にした「お父さんのためのピアノレッスン実演」。わがままいっぱいのソプラノ歌手とのアンサンブル、それもテンポが大きく揺れるナポリ民謡の伴奏とあって、四苦八苦しながら感情豊かな演奏にトライする大木さんの姿に、あたたかい拍手が送られました。
途中、次に演奏する曲の楽譜が行方不明になる一幕も斎藤さんの笑いを誘うアドリブで乗り切るなど、演奏の合間は笑いが絶えず、お父さんたちも大勢詰めかけた会場はリラックスムードいっぱい。
軽妙なおしゃべりとは対象的に、一音一音が濃密に考え抜かれ、音の濃淡が巧みに描きわけられた演奏は、聴衆を自然に音楽へと引き込み、入門者に楽しく、長年の音楽ファンに聴き応えのある、充実したコンサートとなりました。
147号/1999年11月号「ふだん着のピアニスト」より
〜一生懸命やっていれば伝わるものは必ずあるはずだから〜
● コーヒー牛乳では本当のコーヒーを飲んだことにならない
強烈なキャラクターだった〈キーボーズ〉。
NHK教育『トゥトゥアンサンブル』の中で、ピアノを弾き、音楽のアドバイスをする謎の人物。派手な衣装とダジャレの連発で、一躍人気者になった。
番組のゲストとして、第一線で活躍する演奏家たちも出演してくれた。
「中村紘子さん、佐藤しのぶさんをはじめ、たくさんの人たちがさり気なく出てくださいました。今、落ちついて考えてみると、実に濃い内容だったと思います」
その濃さには理由がある。クラシックを聴きやすくするために、さまざまなギャグや楽しい言葉で説明するけれど、演奏する音楽にはまったく手を加えない。それをコーヒーにたとえるのが、最もわかりやすいという。
「コーヒーは苦い。初めて飲む人にはおいしくないかもしれない。かといって、砂糖を加え、ミルクを入れたコーヒー牛乳にしてしまったら、本当のコーヒーを味わったこといはならない。しかも、コーヒーはどこの原産で、どうやって栽培・収穫して、こう焙煎して挽いて、こういれるのが一番おいしいとか、どこの豆は酸っぱくて、どこの豆は苦みが強いとか、くどくど説明されたら、もうコーヒーなんか飲まなくてもよくなっちゃう。
だったら素直に、コーヒーは苦いよ〜ん、でも、慣れるといろんな味がわかるようになっておいしいんだよ〜ん、みたいになんだか楽しそうに言われて、コーヒーそのものの味を試してみる方が、よっぽどスリリングで貴重。なにより本物を知ることだから、これだけはやっぱりはずしちゃいけない」
コーヒー牛乳を飲ませるコンサートが多すぎた。多少苦くても本物を聴き分け、味わえるくらい、特に子どもたちの耳はシビアだ。
「彼らは未来のお客様でもあるし(笑)。ぼくは入門編担当を、ばっちりやろうと思っているんです。予告編だけど、クラシックの本当の魅力をきちんと示して、もっとクラシックを聴きたい・知りたいという人を作りたい」
● 忙しいけれどそれは今だけかもしれないから
日本音楽コンクールに優勝し、〈芸大のホロヴィッツ〉とまで言われたテクニックと音楽性。しかし活動は順風満帆とはいかなかった。
「報われないことは多かったですね。たくさんのことを諦め捨てて、家族にも迷惑をかけてきて、ずっとピアノのためにやってきたのに、と本当に悩みました。みんなそうだと思うけど・・・」
そんな時、中村紘子さんから手紙が届く。それには『才能を持ったあなたが、このままダメになってしまうのは残念です』ということが書かれていた。涙が出るほど嬉しかった。良い時は寄って来ても悪い時には手の平を返したようになる人が多い中、どんな時でも応援してくえる先輩は貴重だ。
「そういう先輩がいたから、ぼくはやってこられた。それなら、ぼくもそういう先輩になりたいと思った。才能がないわけじゃないのに、プロとしての活動を諦めていくたくさんの若い人たちを見るにつけ、チャンスをアイデアを持って、生き残ってほしいと思うんです」
アイデアはどんどん湧いてくる。ファミリー向けの企画やテレビ番組の構成など、奇想天外なアイデアは周囲の友達も考えてくれる。
「たくさんの人たちの支えがあるので、苦労してでも企画を立ち上げて、よりみんなが楽しめるものにしたい。人生をかけて取り組んでいくものだから。ぼくがいろんなことを一生懸命やっているのを見て、若い音楽家の人が勇気を持ってくれたら嬉しい」
今、忙しすぎて、一日に3〜4時間しか眠れないという。
「この9月にはCDを4枚出すし、コンサートも企画から携わっているものが多くて。ここまでオーバー・ワークになるとは思いませんでした。食べてるヒマもないし、自分の練習をする時間が取れない。日替わりでコンサートがあったりすると、寝ないで練習です。
でも演奏活動がしたくてずっとやってきたんです。ここでどれだけできるのか、試されているのだとも思っているんです。今まで夢みていたことが、やっと形になってきたんです。こうして忙しいことは本望でもあるし、これを越えなければならない。もしかしたら、この次には何もないかもしれないと思うと恐怖ですらあります。もっと自分は演奏したいのに、と思ってることを考えれば、いかに幸せなことかと思うんです」
● クラシックを上質のエンターテイメントにしたい
伴奏ピアノの評判も高い。なかでも歌手たちからの共演の依頼が多い。
「特にドイツ・リートのリサイタルですと、『こうであらなければならない』というのが、日本では強い。でも第一線の外国の歌手たちは、もっと音楽的に自由で豊かです。それを引き出してあげるのがぼくの仕事。原典に忠実じゃないという人もいますが、基本は外してないつもりです。
それで思うのは、たとえばマイケル・ジャクソンやフランク・シナトラのコンサートに〈勉強〉しに行く人がありますか?っていうこと。どんな歌を、どんな風に表現してくれるのかを、楽しみに行くんでしょう?クラシックだって同じだと思うんです。きちんとしたエンターテイメントとして成立させたいんです」
NHKの『趣味悠々』では大人のレッスンを担当。これも独自のポリシーでやりたいと意欲満々。
「ぼくに出会うことで、よりピアノが好きになってくださったら最高。プロを目指すわけではないから、楽しみましょうという姿勢で臨みます」
とにかくピアノが好き。ピアノなしの人生は考えられない。
「思うようにピアノが弾けないとすごくブルーです。どんなに私生活でいいことがあってもね。だから、悔いなく一生懸命やろうと心に決めています。一生懸命やっていれば、伝わるものが必ずあるはずだから」
136号/1998年1月号「ピアニストーク」より
〜人生をエンジョイさせてくれるピアノを一生弾き続けたい〜
(NHKの教育番組で強烈なキャラクターを演じて話題の斎藤雅広さん。18歳で日本音楽コンクール優勝、デビュー当時からそのヴィルトゥオーゾぶりは評判でした。最近はソロよりも室内楽や伴奏に力を入れている斎藤さんに、幅広い活動ぶりと、その人生のポリシーをうかがいました。)
● テレビ・ゲームがネタの元
大好評をいただいている「キーボーズ役」。とても大切な活動の一つとして、力を入れて取り組んでいるので、まずその話を聞いて下さい。NHKの教育番組「トゥトゥアンサンブル」は、リコーダーを勉強しながら、クラシックの音楽を聴こう、という番組なんです。でも、お勉強に終ってはつまらないから、内容を工夫しようと思って、テレビ・ゲーム感覚で楽しめるようなストーリーを考えたんです。音楽の森に入り込んだ子供が、リコーダーの吹き方を覚えながらゴールに向かって歩いていく。子供がリコーダーの音をひとつ覚えるたびに森の主「キーボーズ」を訪ねてきて、その覚えた音でアンサンブルをしたり、演奏を聴いたり、いろいろな音楽の知識を授かるというストーリーです。
基本的なストーリーや「キーボーズ」など、発案はぼくなんです。もちろんキーボーズ役がぼくです。鍵盤の「キーボード」とお坊さんの「坊主」を引っかけてあるんですけど、結構人気があるんですよ。キーボーズの衣裳などすべてはNHKが用意してくれました。NHKのスタッフの遊び心も生きているんですよ。
台本があって、セリフをしゃべるというのは初めてでしたし、役作りをするのはなかなか大変でした。あとでビデオを見て、あそこが気に入らない、ここがダメだと反省してます。でも、ピアノ演奏では、けっして力を抜かず最大限の能力を発揮しようと、毎回真剣勝負。普通のコンサートより三倍以上神経を使います。こうした番組に出演するためには、その場で編曲できる能力、音楽以外のパフォーマンスができること、そして学校で教えていること、という三つの条件が暗黙のうちに必要とされました。
ぼくはもともと作・編曲をやっていましたし・・・ピアノ曲集もあるし(ヤマハミュージックメディア刊)・・・、「おしゃべりコンサート」をやったり、ラジオのDJをしてました。そして最近、大阪音大の講師にもなった。見事に条件をクリアしてしまったわけです。
番組では、ノリノリだったり駄洒落を飛ばしたりして、クラシックのピアニストがここまでやっていいの?と周りをずいぶん心配させてしまっています。でも自分自身では、とにかく楽しいことが好きなんだから、これも自分の方向性として正しいかなと。この番組出演をきっかけに友達になった人もたくさんいて、結果的には応援してくださる方が増えました。中途半端ではなく、思いきり楽しんで何事も取り組んで、演奏ではけっして妥協しない、というぼくの姿勢に共感を持ってくださる方が多いのは、大変励みになります。
● 室内楽も伴奏も楽しくてしょうがない
いろいろと手広くやっていると思われるかも知れませんが、活動の基本はとにかくコンサートです。室内楽や歌の伴奏が、特に好きなんです。
室内楽は、自分の中の音楽に対するチェックポイントになるんです。最近、共演する機会の多いヤナーチェク弦楽四重奏団とだと、彼らの本場の本物と合わせてみて、自分の演奏が間違ってないと自信を深めることができます。
歌の伴奏も大好き。ピアノのソリストの水準はものすごく高いのに、歌曲の伴奏はつまらないものが多いと思いませんか?歌の伴奏だからといって、ピアニストの個性を殺すことはないと思う。ジェフリー・パーソンズやヴィンチェンツォ・スカレーラなど、伴奏のピアニストとして有名ですけど、本当に味わいがありますよね。
でも、ぼくは歌手殺しとして有名なんです。音楽の流れを妨げるような息つぎは許しません。だって、歌とピアノの両方で音楽になるわけだから。その代わり、オーケストラ版をピアノ用に編曲したものだと、たとえ徹夜してでも歌手に合わせて手直ししたり、編曲し直したりして納得のいく音楽をつくるようにします。
コンサートの本番は、真剣勝負です。お客様の顔を見て、リハーサルなんかおかまいなしにテンポまで変わります。ステージでお話をするのは、お客さんの注意を引きつけて、こっちのペースに巻き込むためもあるんです。そうすれば、こっちの都合にもっていけるでしょ?だって人間なんだから、調子の悪いときもあるし。でも、いつでも一生懸命。
ソロ・リサイタルを期待されるんですけど室内楽の方が楽しくってついつい遠ざかっています。
室内楽には楽しいことがいっぱい。さっきも言いましたけど、自分自身をチェックできる。音楽の駆け引きのスリルがまたしびれる。そして友達ができる。ぼくはまだまだもっと室内楽をやりたい。
● 難しいクラシックをリラックスして聴けたら
クラシック音楽は難しいものです。難しいからこそ、聴く喜びは大きい。易しいものじゃない良さがそこにあるんです。文芸作品を読む喜びと同じ。たとえばキーボーズは、デパートの屋上にでも公園にでも、どこにでも出掛けて行って、冗談言っておかしなことをしているけれど、難しいクラシックをばっちりと弾く。要するにその場の雰囲気を楽しくして、難しいクラシックでもリラックスして聴けるようにしたいんです。現代の作品だってどんどん演奏します。聴きやすいようにいじくったりは絶対にしません。それがぼくの信条ですね。また、そこにぼくだからできる役目があるような気がするんです。
ぼくのコンサートに来てくれた人が、ロマンティックな気持ちになってくれたら、それが一番嬉しいな。デートで来てくれたりしたら、とても嬉しい。
最近はコンサートの数が増えてきて、練習時間を取るために、睡眠を削ることも多くなりました。たとえば中村紘子さんのように、あんなに演奏会の数が多いのに、あれだけのレベルをキープしているすごさには感嘆します。プロとしての厳しさ、強靭さがある。くじけそうになることもありますけど、ぼくは音楽から離れることなんて考えられない。ぼくの生きる目的は人生をエンジョイすること。そのためにはピアノを弾いていたいし、生活費も必要。今のところ、全部叶えてくれるのが、ピアノなんです。そうやって、ピアノを一生弾き続けていきたいな。
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